第6話 異世界に行って勇者になりたいですか

 次のダンジョン活動、略してダンカツの話し合いと晩御飯を兼ねてアキさんとやってきたのはチェーン店のトンカツ屋。「学生の身分で贅沢してるな」とは自分でも思うがダンジョン素材が高く売れるのが悪い。それにダンジョンの深奥を目指すためにより強い装備を目指すわけでもなく、生活がひっ迫してるわけでもない(奨学金の返済はあるけど)のでこれぐらいは許されるだろう。だといいな。


「私は、ミックスフライかなー。ヒカリンは?」


「ロースカツですね。麦飯の豚汁で」


 タッチパネルで注文を入れて、この前のダンカツの反響を話し合う。撮った画像とそれを使った動画(人工音声ソフトで解説入れる系。チャンネル登録よろしくね)の再生数とコメント。まあみんな好き勝手言うわけだけど「ダンジョン由来の植物で燻製をした」というのは何気に世界でも珍しいケースらしくレシピの詳しい提供を求められた。英語で。なんでレポートでもないのに英語書かにゃならんのか。書いたけど。結構な額の投げ銭来たけど。


「なんかネット関係全部任せちゃって悪いにぇー」


「構いませんよ。戦闘は援護しかできないんで持ちつ持たれつです」


 エビフライにこぼれそうなぐらいタルタルソースを乗っけてかじりつくアキさんにそう返しながら、軽くゴマを擦って塩と混ぜる。アツアツのロースカツを一切れとってちょいゴマ塩を付けてかじりつく。うん、ザクっとした衣、じゅわっとした肉に、香ばしいゴマが良く似合う。ソースをどっぷりつけるとこうはいかない。


「ずいぶん通な食べ方するねー。美味しいのそれ?」


「美味しいですよ。アキさんもやります?」


「んー、ヒレカツでやってみようかなー。エビフライはタルタルでないと」


「是非にどうぞ。それで私たちの拠点のことなんですが、そろそろ魔物対策でなんか罠でもしかけようと思うんですが」


「また物騒な話来たねえ。でも罠とかあっても小鬼ぐらい知恵あると意味なくない?罠に使った電気柵とか流用されたら困るし」


「電気柵は持ち込めないですよ。こっちの道具は魔物には通用しないし」


「あ、そっか。え、じゃあどんな罠つかうの?」


「シンプルに落とし穴とか逆茂木とかですかね。最悪、野生動物系の魔物が近寄らなくなるだけでもありがたいんですよ。満月熊とか」


「あー確かにねえ。熊が東屋の中で寝てた時はどうしようかと思ったもんねえ」


「撮れ高はありましたけどね……」


「そっか、それ考えると罠とかじゃなくても柵を作っておくだけでも、なんか企画やるのが安全になるよねぇー」


「だもんでその辺を具体的にどうしようかなって」


「んー、ならさー……」


 ……そんな感じの企画会議という名前のおしゃべり。お祭りは準備の時間が一番楽しいという話があるけど、よくわかる。だって気が付いたら、22:00を超えていたのだから。



 とっぷりと日が暮れるほど話し合って、次の企画は「果たしてダンジョン内の石灰石をもってきてモルタルで壁が作れるか?」に決まった。計画の詳細はまた別の日にしようということで今日はいったんお開き。楽しいおしゃべりで気分がハイになりつつ、頭使いすぎてふらふらしつつ、そんな感じで駅まで二人で歩く時間。

 中学まで同じ学校で、高校で別の道に行って、もう会わないと思ってた。それがこうして一緒に冒険者してる。

 学食で突然電話がかかってきて「ヒカリン、今ひま?ダンジョンいかない?」と来た時にはどういうことなのかホントにわからなかった。小学生の時「異世界転生して勇者になる!!」って本気で言ってたのが治ってなかったのかと思いもした。いや、治ってなかったんだろう。だから、小学生のころから今でもずっと先生に剣術を習っていたんだろう。聞いた時には正気を疑った。先生の。まー、「異世界に行って勇者になりたいですか。では、学校の勉強をちゃんとしなければいけませんね。嫌な努力でもちゃんと立ち向かえる。そうでなければ勇者として危険なものには立ち向かえません」と真顔で小学生に説く人だったからな、先生。

 過去のことを思い出すたびに……聞けない質問があることを思い出す。ずっとずっと。聞けない質問が。


(どうして私だったんですか?)


 本来ならば、大学の友人だろう。そうでなくても、女子高の友人だろう。そうでなければ、先生か。

 なぜ中学で行く道を違えた幼馴染に声を掛けたのか。

 なぜ「ダンジョンに遊びに行く」などという狂気の沙汰に付き合うと思ったのか。

 なぜアキさんは私を選んだのか。そのことを――


「ヒカリン、尾行つけられてる」


 口にする前に、アキさんの囁き声が遮った。

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