第13話
目の前にはひざまずいて花を差し出し、愛を乞う男。
花祭りでは珍しくもない、そこここで見られる光景だ。
だけど、モニカは花を差し出して告白され、大いに狼狽えた。
「え? だ、だって、フォクシーには他に好きな人が……あの女の人は?」
モニカがわたわたと尋ねると、フォクシーはげんなりとした顔で舌打ちをした。
「ちっ。あいつが家に来たりするから……」
「何よ! 文句あんの!」
突然現れた女性が、フォクシーの頭を大きな花籠で殴った。
「てめぇ! なにすんだ!」
「自分の甲斐性のなさを人のせいにするんじゃないわよ! 告白すらしていない相手に何の花を贈るかいつまでも悩んじゃってさ! 花屋の店員だからって実の姉にのろけてんじゃないわよ!」
フォクシーと例の女性がぎゃーぎゃーと言い争う。モニカは呆気にとられてそれを見守った。
「ごめんねぇ〜。この甲斐性なしが迷惑かけて。あの日はこいつに「いい加減に何の花を贈るか決めろ」って言いに行ったのよ〜」
「え?」
「愛の告白なら赤い花か、いや、モニカさんにはオレンジも似合う、でも青い花も清らかな彼女にふさわしい、ああ、それなら白い花の方が……って、いつまでもぐだぐだ悩んでたのよ、こいつ」
「テメェ! くそ姉貴っ!」
「お姉様と呼びなさい愚弟!」
女性がもう一度花籠でフォクシーを殴った。
モニカは目を瞬いた。
「お、お姉さん……?」
確かに、よくよく見れば女性はフォクシーと似ていた。茶色い髪と目、すらりとした背格好と整った顔立ち。
では、モニカが勝手に誤解していたのか。
「モニカさん! 俺が好きなのはモニカさんだけです! 信じてください!」
フォクシーがまっすぐにみつめてくる。
モニカはじっとその目をみつめ、なんだかおかしくなって笑い出してしまった。
「ふふっ。あはは……」
「モニカさん?」
「あははは……なんか、馬鹿みたい」
ひとしきり笑った後で、モニカはフォクシーの差し出す花束を受け取って微笑んだ。
***
「モニカさんから恋文がもらいたいです」
デートの途中で、フォクシーが妙なことを言い出した。
「何言ってんの?」
「だって、モニカさんから初めてもらった手紙が、「別れの手紙」だったんですもん」
フォクシーはぷくっとふくれっ面になった。
「俺、可哀想じゃないっすか? 悪いと思ったら「恋文」をください」
そんな要求をしてくる年下の恋人に、モニカは呆れながら笑った。
「でも、「恋人のふり」はやめるって手紙だから、間違ってないよね?」
「あー、ひっでー。そんなこと言って「恋文」くれない気なんだ」
フォクシーはいかにも不満そうに口を尖らせるが、繋いだ手を放す気はないらしく、ぶんぶんと前後に手を振る。
「もう、そんなことで拗ねないでよ」
「そんなことって何すか!」
「はいはい。今日も頑張ってね」
いつも分かれる道まで来て、モニカは立ち止まった。
フォクシーは渋々モニカの手を放し、騎士団の詰め所に向かって歩き出す。その後ろ姿を見送っていたモニカは、思い切ってたたたっとフォクシーに駆け寄った。
そして、背伸びして彼の耳に囁いた。
「大好き、って、言われるより、文字の方がいいの?」
返事を聞く前に、身を翻して逃げる。
背後から「どっちも欲しいです!」と聞こえてきたので、モニカは思わず笑ってしまった。
騎士見習いの年下男子が私の嘘に協力してくれるんですけど 荒瀬ヤヒロ @arase55y85
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