第12話




 花祭りの会場では、色とりどりの花が飾り付けられ、人々も華やかに装っていた。

 その中で、花を掲げた男性が女性の前にひざまずいて愛を乞う姿がそこここで見られる。

 花屋の店員が花を持っていない男に近寄っては焚きつけたり唆したりして花を買わせようとしている。

 喧噪の中を、モニカは出会う友達に挨拶しながら歩いていた。

 あちこちで求婚に成功したカップルが出来ていくのを見て、モニカはフォクシーもあんな風に彼女に求婚するのだろうな、と想像した。

 想像しただけで胸が痛くなって、モニカは胸を押さえた。


(だめだ。こんなんじゃあ……)


 とても、笑顔で祝福出来そうにない。

 やっぱりフォクシーが彼女に求婚するのを見るのは辛い。

 モニカは騒がしい祭りの中心から離れて、人の少ない隅の方へ移動した。


「はあ……」


 自分が情けなくて、モニカは落ち込んだ。


(ちゃんと、お祝いしてお礼を言わなきゃいけないのに……)


 フォクシーはモニカに優しくしてくれた。手を繋いで歩いたり、恥ずかしかったけれど楽しかった。

 フォクシーと過ごした短い時間を思い返すと、モニカの瞳からすーっと涙が流れた。


「……いつの間にか、こんなに好きになってたんだなぁ」


 ぽつりと呟いた。



「誰をっすか?」


 憮然とした声が聞こえて、モニカは慌てて振り返った。

 ピンク色の花束を抱えたフォクシーが、拗ねた顔で立っていた。


「誰であろうと、渡す気はないっすけどね」


 そう言うと、フォクシーはモニカの前でひざまずいた。


「え?」


 戸惑うモニカに、フォクシーは花束を差し出して言った。


「モニカさん。いつも教会でまじめに働いている姿を見かけていて、気になっていました。

 だから、あの日モニカさんが来た時に話しかけたんです。

 そんで、彼氏のふり出来ることになって「ラッキー」って思いました。めいっぱい優しくして、俺のこと好きになってもらおうって思ってました。

 だから、「もういい」っていうあの手紙受け取って、すげーショックだったんすけど」


「え? ご、ごめん」


 責めるような目で見上げられて、モニカは思わず謝った。


「悪いと思ってるなら、受け取ってください。好きです。モニカさん。俺の本物の恋人になってください」


 真剣な声音で言われて、モニカは混乱した。



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