第9話




 手を繋いだまま街の中をぶらぶら歩き、フォクシーが話しかけてくれる内容に相槌を打つ。

 先ほどから顔を上げられない。モニカは自分の顔が真っ赤になっている自覚があって、フォクシーの顔を見ることが出来なかった。


「モニカさーん、聞いてます?」

「う……ご、ごめんなさい」


 生返事をしているのがばれて、フォクシーが立ち止まって顔を覗き込んできた。モニカはぎゅっと目をつぶって謝った。そうしている間も、顔に熱が集まってくるのがわかって恥ずかしい。


「そこまで緊張されると、こっちまで照れちゃうんすけど……」

「うう……ごめん」


 情けなくて肩を落としてしょげていると、フォクシーがモニカの手を引いて道の端で立ち止まらせた。


「そこの店で飲み物買ってくるんで、ここにいてくださいね」


 モニカがあまりにも緊張しているので気を遣ってくれたらしい。フォクシーは手を離して食料品店に入っていった。

 モニカは「ふう」と息を吐いて、熱い顔をはたはたと扇いだ。


(もう、こんなに変な態度してたら、意識してるってばればれだよ……恥ずかしい)


 偽物の恋人なのに、モニカがこんな態度だったらフォクシーは困ってしまうだろう。


(しっかりしなきゃ……)


 そう思って、顔を上げた時だった。

 ばっしゃーんっと、頭から水をかけられて、モニカは驚くより先に頭が真っ白になった。


「え……?」


 ぽたぽた、と髪から水が垂れる。肩から胸元まで服もぐっしょり濡れてしまった。

 目の前に、バケツを抱えた少女の姿があった。


「調子に乗らないでよね! フォクシーがアンタなんかと本気で付き合う訳ないじゃない!」


 目を怒らせてモニカを罵るダイアナは、空のバケツをモニカの足下に投げつけて走り去った。


「モニカさん!?」


 店から出てきたフォクシーがモニカの惨状を目にして顔色を変える。


「くそっ! 待ちやがれっ!!」


 見たことのない怒りの形相でダイアナを追いかけようとするフォクシーを、モニカは必死に止めた。


「あの、いいから。大丈夫よ」

「はあ? 大丈夫なわけないでしょ! 絶対に捕まえてやる! モニカさんをこんな目に遭わせて……」

「大丈夫だから!」


 強めに引き留めると、フォクシーは納得できない様子だったが追いかけるのをやめてモニカに向き合った。


「すいません。俺がモニカさんを一人にしたから……」

「フォクシーのせいじゃないよ」

「モニカさん、風邪引いちまいます! あの、俺の借りてる部屋の方がモニカさんの家より近いんで! タオル貸しますから!」


 ずぶ濡れのモニカを心配する方に意識が向いたらしい、フォクシーはモニカの濡れた手を取って走り出した。



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