第8話




「モニカさーん!」


 フォクシーは毎朝モニカを迎えにくる。そして、二人で他愛のない会話をしながら歩く。

 それだけの短い時間だったが、モニカはその時間が段々好きになっていった。フォクシーは一見軽そうに見えるが、根は真面目なのかモニカに対しても優しく接してくれる。


(私なんて、可愛くもないのに……)


 男性に親切にしてもらうという経験があまりなかったモニカは、フォクシーの態度に照れつつも嬉しかった。


「モニカさん! 俺、今日は午後から非番なんで、デートしましょう!」

「ええ?」


 ある朝、フォクシーからの申し出に、モニカは文字通り飛び上がった。


「嫌ですか?」

「い、嫌じゃないけど、私とデートなんてしたら、フォクシーが恥をかくんじゃあ……」

「は? なんすか、それ」


 フォクシーは眉をしかめた。


「モニカさん、自分に自信なさすぎっすよ」

「う、だって……」

「俺の「恋人」なんすから、堂々と隣を歩いてくれなくちゃ困りますよ」


 そう言って、フォクシーはモニカの頬をむにっと摘んだ。

 にっこりと目を細めて微笑まれて、モニカはかーっと赤面した。


「じゃ、教会に迎えに行きますから!」

「へ?」


 一方的に言い置いて、フォクシーは元気に手を振りつつ詰め所の方へ駆けて行ってしまった。

 取り残されたモニカは、教会への道を歩きながら真っ赤な頬を押さえた。


(デートって……)


 あくまで「ふり」なのだから、照れる必要はないのだとわかっていても、顔が熱くなってしまう。


(どうしよう……)


 なんだか勘違いしてしまいそうで、モニカは自分に何度も言い聞かせた。

 自分とフォクシーは偽物の恋人なのだ。浮かれたりしちゃいけない。

 そう言い聞かせると、胸がきゅうと痛んだが、モニカは気づかない振りをした。

 その後、いつものように奉仕を終えて教会を出ると、朝の約束の通りフォクシーがモニカを待っていた。


「モニカさん!」


 自分を見つけるとぱっと嬉しそうな笑顔になるフォクシーに、モニカは胸が苦しくなった。


(ダメダメ。勘違いするな……)


「モニカってば、デートなの?」

「やだー! 迎えに来てくれるなんていい彼氏ねー!」


 友達からやっかみやら励ましやらを込めて背中を押され、モニカは半ば胸に飛び込むような形でフォクシーの前に立った。


「それじゃ、行きましょ」


 フォクシーはにっこり笑って手を差し出してくる。

 少し迷ったが、モニカはおずおずと手を伸ばしてフォクシーと手をつないだ。背後で女子達が「きゃーっ!」と盛り上がる。

 顔を真っ赤にしながらも、モニカはフォクシーに手を引かれて歩き出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る