第7話
受付で恐る恐る呼び出してもらうと、フォクシーはすぐにやってきた。
「どうしたんっすか? モニカさん」
いつ見てもにこにこと機嫌良さそうに笑っているフォクシーに、モニカはほっとした。
「あの、ちょっと話したいんだけど、いいかな?」
「いいっすよ! ちょっと待ってくださいね」
フォクシーは一度受付の奥に引っ込むと、よく通る声でこう叫んだ。
「団長ーっ! 愛しのモニカさんが会いに来てくれたんで、ちょっと抜けまーす!」
モニカはぶほっと咳き込んだ。
「上手くやれよー!」だの「手ぇ出すなよー!」などと野次も聞こえてくる。モニカはその場にずるずるとうずくまって手で顔を押さえた。
「お待たせしました! ……どうしました?」
戻ってきたフォクシーが首を傾げたが、モニカは顔を上げることが出来なかった。
「あ、のさ……やっぱり、こういうの良くないと思う」
人目につかないように詰め所の裏に回って、モニカはおずおずと切り出した。
「こういうのって?」
「だ、だから、付き合っているって嘘吐くの」
フォクシーが笑みを消してむすっとふくれっ面になった。
「なんでっすか? お互いに良いことしかないでしょ」
フォクシーはそう言うが、どう考えてもモニカの方が恩恵に与っていると思う。
だって、モニカは彼女にして自慢できるような美人じゃない。それに、よく考えたらモニカみたいな女と付き合っているなんて言ったら、町の若衆達からフォクシーが馬鹿にされてしまうんじゃないだろうか。
「でもさ、フォクシーのことを本気で好きな女の子達が傷ついちゃうんじゃあ……」
「本気で告白とかしてくれる子には、ちゃんと真摯に対応してますよー。俺が避けたいのは、大勢の前で俺が自分だけを贔屓してくれることを期待してまとわりついてくる奴です」
フォクシーはじっとモニカの顔を覗き込んできた。モニカは思わず後ずさった。
「じゃあ、モニカさんは今さら友達に「恋人がいるのは嘘だ」って正直に言えますか?」
「うっ……」
それを言われると、モニカは何も言えなくなった。
「そんな深刻に考えないで、楽しく付き合いましょうよ」
フォクシーはぱっと笑顔を見せて、モニカの肩に手を回した。
ぐいっと引き寄せられて、近付いた顔にどきっとして顔に熱が集まる。
「俺、そろそろ戻らなきゃならないんで。見送りますよ」
「え、あ……」
表に戻って、フォクシーは詰め所の前で手を振ってモニカを見送ってくれた。
モニカは真っ赤な顔を押さえてふらふらと帰り道を辿った。
『人目のない裏路地から二人で出てきて顔を真っ赤にしていた』という噂が広まったことをモニカが知ってがっくりと地面に膝を突いたのは翌日のことだった。
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