第22話 こんなところで死ぬな!生きて勝ち残るんだ
「負けるかも」
とは思わなかったが、徐々に恐怖感が高まってきた。その恐怖を
「どうしよう?」
と、地に顔を伏せ考えを巡らせていると、カシラのジロチョーが
「このままじゃ、やられる一方だぜ」
「まず、飛び道具を封じなければ」
「接近戦に持ち込もう」
さすが、百戦錬磨の
「賛成」
「クロスボウの男と、スリングショットの男、どっちを狙う?」
「
お互いの目が合った。言わなくても分っている。どちらかが
うまくいけば良いが、危険を伴う戦法であることは確か。囮には、最悪、死が待っている。
「あたしが囮に」
「いや。オレが囮になるから、走って、間合いの中へ入れ」
「だって」
「体重が軽いぶん足の速い
「わかった」
カシラのジロチョーは、あたしの目を見つめ、黙って
その隙に、あたしは大きく迂回して、クロスボウの男の背後に回ろうと駆けた。
すると、突然、クロスボウが、あたしの方を向いた。
「え?気づかれた?」
予期せぬ出来事だった。おとり作戦が見抜かれたのか?それとも、猫殺しの単なる気まぐれか?忍び足で回り道するあたしを、間違いなく狙っている。
ブン
と、弓の震える音がして、矢はクロスボウから勢いよく放たれた。
「ギャッ」
と射抜かれて転がったのは、どこからともなく現れた、ボス猫のハローだった。あたしを
「親分!」
目の前に転がっているボス猫ハローへ、あたしは
「しっかり!」
ボス猫ハローは、弱々しく、
「おまえの前で
「バカ。死ぬんじゃないよ」
「
「生きるんだ!生きて勝ち残るんだ」
「わしらの時代は終わりじゃけん」
と、
「親分!親分!」
目を、一粒の水滴が濡らした。
雨が降ってきた。
あたしは、ボス猫ハローの体から身を起こし、
その視線の先に、カシラのジロチョーが、忍び足で、男の背後へ回り込もうとしているのが見えた。
結果的に、あたしが囮になった形で、カシラのジロチョーは、間合いへ入ることに成功したようだ。
「よし!」
あたしは、再度
「チャンスだ」
カシラのジロチョーが、背後から、男の背中めがけ飛びかかった。
「痛え!」
暗視ゴーグルの死角から
「ちくしょう」
と男は、防護
「痛え!」
悲鳴を聞きつけ、スタンガンを持った男が、助けに走り寄ってくる。
スリングショットを構えた男が、猫を射落として救出しようと、目一杯ゴムを引いて、じっくり照準を合わせてから、パチンコ玉を
ビシッ
と、弾は、猫を引き
「痛え!」
衝撃で、歯が
「おい!撃つな!俺に当たるじゃねえか!」
と命じ、なおも猫を振り落そうと、腰を回して、上体を振った。
振り回せば振り回すほど、振り子のように猫が振られ、体重五キロを支える前足のかぎ爪が、どんどん深く皮膚に食い込んでいく。
あまりの痛さに耐えかねた男は、腰のホルダーから
鋭利な刃物が、振り回されているカシラのジロチョーの体を、何度も切り裂いた。
鮮血が、クリーム色の体毛を、深紅に染めた。それでも、カシラのジロチョーは、しがみついている。
次の一刺しが、男の肩に突き刺さった。
「ガアッ」
と
「今だ!」
あたしは、男へ向かって
「みんな!」
と、振り向き、
「かかれ!」
と号令すると、ムクドリの大群が空を
猫の体重が加算され、身体を支えきれなくなった男は、ふらつき、やがて、膝を突き、折り崩れるように倒れた。
その上に、猫たちが、容赦なく殺到し、爪を研ぐように、男の戦闘服や、皮膚を引っかく。
男は、痛みと、恐怖で、気絶した。
それを見届けたあたしは、血だらけで倒れているカシラのジロチョーのそばへ駆け寄った。
「しっかり!」
激戦で、息も絶え絶えのカシラのジロチョーが、
「し、仕留めたか?」
と、弱々しく訊ねた。
「うん」
と頷くと、
「そうか」
と微笑み、
「あとは頼んだ」
と、気を失うようにガクリと首を落とした。
「こんなところで死ぬな!」
と叫んでも、目を開けることはなかった。
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