第20話 黒い森の中から千匹の猫が一斉に現われたら
遠く
日没後、あたしたちは行動を開始した。敵の位置は、常に把握している。
本隊は、
敵は今、
「だったら、楽しい
と指示すると、伝令のハンゾーが、
「承知」
と短く答えて、忍者のように、一瞬で姿を消した。
敵が、
飛び道具のクロスボウに対抗する作戦は、暗視ゴーグルの死角になる背後や、横や、下から、敵の頭部へ飛びつき、暗視ゴーグル一キログラムに加え、猫の体重五キログラムを足し、合計六キログラムの頭でっかちにしてバランスを
転んでしまえば、飛び道具の攻撃力など無きに等しい。あとは、ガリバーよろしく、敵の体に群がり、するどい爪で、ひたすら切り裂く。オスの
戦略目標は、この島へ、二度と来させないこと。
そのためには、敵の生死を問わない。あたしたちも生死を賭けて戦うのだから、当然であろう。
その頃、湯治場では、三人の人間が夕食を
温泉の水で炊いた白飯は、ふっくら、ツヤツヤ、もちもちで、
「さ、喰おうぜ」
「ああ、腹減った」
「いただきまーす」
と、食べ始めるのを待ちわびていたかのように、十匹の猫が、食卓の上にドサドサ落ちてきた。十匹で、体重は、合計五十キログラム。
食卓が引っくり返り、醤油さしが舞い、皿や茶碗が滑り落ち、ガラガラガッシャーンと騒々しい音をたててて割れ、カップヌードルが熱湯を撒き散らして転がった。
「熱ッ!」
不意を突かれた三人は、慌てふためいて絶叫した。
「うわあっ!」
「なんだよっ!」
落ちてきた猫たちは、
怒った一人が箸を投げつけた。
「この畜生が!」
と
「あの猫ども、感電死させてやる」
と、棒状のスタンガンを取り出した。電気ショックで相手の動きを止める防犯用具である。放電スイッチを押すと、
バチバチ
と激しい音を立て、四十センチの棒の先に、青い電流がほとばしった。
スタンガンの悪用による傷害事件、暴行事件、殺人容疑が増えたとはいえ、市販のスタンガンは、身動きを止めるのみで、気絶させるほどの威力は無い。それでも、人間に比べ
空いている片手で、電動マシンガンを持ちあげた。プラスチック製の丸い六ミリ
片手で撃てて、連射は安定するが、威力はガスガンを下回り、
とはいえ、
電動ガンにしても、ガスガンにしても、改造の疑いを持たれると、
もう一人は、ピストル・クロスボウを手に取って、
「ぶっ殺してやる」
と、弓を引いた(コッキングした)
フルサイズ・クロスボウを、室内でコッキングするのは、手間がかかるうえ、安全面でリスクを負う。その点、片手で打てるピストル・クロスボウならば、
ただし、コッキングするために利き手を空けておかねばならず、もう一種類の武器は同時に持てない。
三人目は、スリングショットを持った。パチンコと呼ばれる二又の玩具を強力にしたゴム銃である。
スリングショットも、コッキングするために、利き手を空けておく必要がある。二種類の飛び道具を同時に持てない。
いずれにしても、猫にとっては、恐ろしい武器ばかりである。
他にも、部屋のあちこちに、
何に使うつもりで猫の島へ持ち込んだのか想像するだに恐ろしい。
人間たちの
「皆の者!
と命じると、十匹の猫は、窓から外へ、影のように、ヒラリヒラリと飛び出した。猫の小柄な
「逃がすか!」
人間たちは、武器を
追いかけたところで、時速五十キロメートルで走る猫には敵わない。ハンゾーたちは、
走りながらでは、姿勢を固定して狙撃するフルタイプ・クロスボウは使えない。両手を使う虫取り網も、バランスが崩れて、使いにくい。
ピストル・クロスボウなら、使えるには使えるが、走りながらだと、照準が安定せず、無駄撃ちが増え、いたずらに矢を失う。
電動マシンガンも、走りながら撃てるが、そもそも、十メートル以上先を走る小さな猫に狙いを定めるのは至難の
やがて、伝令ハンゾーら誘導部隊は、無傷で、湯治場から
できるだけ、
伝令ハンゾーたち誘導部隊を追ってきた敵の三人組が、
「あの猫ども」
「どこへ行った」
「見つけ出してやるっ」
と立ち止まり、辺りをキョロキョロ見回していると、黒い森の中から、一千匹の猫が、一斉に姿を現わした。
夜の
結局、男たちは、手持ちの武器を、四つしか持ちだせなかった。
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