第14話 間違いなく助けを求めてる!急げ

 外に出ると、黒猫クーにバッタリ出くわした。もの知り猫のリューも一緒だった。

 あたしは、せきを切ったように、ローコー一味いちみの陰謀を語って聞かせた。

「……というわけなのよ。これって、やばくない?」

 それを聞いた黒猫クーと、もの知り猫リューは、お互いの顔を見合わせ、笑った。

「何を笑っているの?何がおかしいの?」

「ミー姉ちゃんは、想像が豊かだね」

「その陰謀説は、空想です」

「どうして?」

 もの知りリューは、いつものように人差し指を突き立ててから、解説し始めた。

「第一に、三人組であること。これは偶然でしょう。世の中に三人組なぞ、いて捨てるほどいます。古いところでは、お笑い三人組のチャンバラトリオ、レッツゴー三匹、てんぷくトリオ。お笑い芸人でしたら、ネプチューンやダチョウ倶楽部など今でも沢山います。ミュージシャンではアリス、アルフィー、海援隊、いきものがかり、ブリリアントグリーン、レミオロメン。アイドルでしたら少年隊、シブがき隊、キャンディーズ、わらべ、シュガー、パフューム。アニメなら、ヤッターマンのドロンジョ一味、妖怪人間ベムとベラとベロ、ルパン三世と次元と五右衛門。文学では、三銃士。歌謡曲では……」

「ああ分かった分かった」

「つまり、三人組であることは、何の根拠にもなりません」

「なるほど」

「グループを結成していなければ、顔見知りが三人そろっていたというだけの話になります。たとえば、元祖がんそ御三家の橋幸夫、舟木一夫、西郷輝彦。新御三家の野口五郎、郷ひろみ、西城秀樹。ゴルフでビッグスリーといえばアーノルド・パーマー、ジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤー。プロ野球ですと……」

「もういいって。じゃあ、奇怪なゴーグルは、どうして置いてあったの?」

「お話の内容から察すると、暗視あんし装置つきの暗視ゴーグルですね」

「暗視ゴーグル?」

「真っ暗でも見える眼鏡めがねです。装着すると、暗闇の中を、私たち猫並みに見通せます」

「猫並みは、言い過ぎじゃない?」

「いいえ。近ごろでは、熱線ねっせん映像、いわゆる、サーモグラフィ付きの暗視装置がありますから、あなどっては危険です」

「ふーん」

「その暗視ゴーグルなら、島民三千人のうち、猫の飼育に関わる全員が持っていますので、珍しくも何ともありません」

「虫取り網は?」

「小学生でも持っています」

「大人が持っているのって、変じゃない?」

「暴れる猫を、動物病院へ連れて行く目的で捕まえる場合、洗濯ネットや、虫取り網を使いますから、何ら不思議ではありません」

「じゃあ、一覧表は?リストに載っている猫を、捕まえるんだって」

「新たに飼ってくれる里親さとおやへ、引き渡すために捕まえるんです。リストに載っているということは、里親が見つかった証拠ですから、幸運な猫たちです」

「ブチ猫ブーの避妊手術の件は?」

「勝手に避妊手術するわけにはいきません。仔猫の誕生を希望する里親もいますから」

「確かに。そういう里親だって、いるワな」

「ブチ猫ブーの里親に連絡が取れないか、もしくは、転勤か何か、何らかの事情で、今すぐ引き取れないのでしょう」

「それに、ローコーは、僕たちの飼い主じゃないから」

「じゃあ、何なの?」

「里親が見つかるまで、三食昼寝つきで、預かってくれているんです」

「里親が、見つからなかったら?」

「ネコロポリスで、海を見ながら眠るんだ」

 なんだ、そうだったのか。あたしは、我ながら、自分で自分が、嫌になった。おっちょこちょいにも程がある。

 ガックリと肩を落としていると、黒猫クーがなぐさめてくれた。

「気にすること無いよ。親子でもないのに、ましてや、相手は、人間ではない猫なのに、無償で、見返りのない愛情を注ぐなんて、裏に何かあるとあやしんで当然だよ」

「うーん」

「でも、本当に、何もないんだ。一緒に暮らしていれば、よく分かる。あの人たちの猫愛ねこあいは、すべて本物の猫愛なんだ」

「そうです。三百六十五日、雨にもマケズ、風にもマケズ、雪にも、夏の暑さにも負けぬ、丈夫な体でエサを配って回り、よくはなく、猫が粗相そそうしても決して怒らず、いつも静かに笑っている、そんなことができるのは、心底、猫を愛しているからでしょう」

「彼らの、猫へ対する献身的な愛情が、猫さらいではない最大のあかしだよ」

 ローコー大統領たちを疑った、あたしが悪かった。

「これで、謎は解けた」

「謎は、まだ残されています。第一に、ロシアンブルーのシャドーは、どこへ消えたのか?」

「そうね」

「第二に、断末魔の悲鳴を上げたのは、猫なのか?猫だとしたら、無事なのか?」

「猫じゃなければ、いいね」

「第三に、三毛猫ミーさんを襲った連中は誰なのか?以上、三点の謎が残されています」

 あたしは、心の中で思った。

「いいえ。まだ、謎は、残っている。どうして、あたしの姿が、人間には見えないのか?どうして、アメショーのショーは“あたしの心”を受け取らなかったのか?その理由がクリスマスに分かるとは?」

「どうしました?」

 もの知り猫のリューが、顔を覗き込んだ。

「ううん、なんでもない」

とはぐらかして、三つのキーワードを整理してみた。

「違和感を感じたのは、猫柱ねこばしらと、ネコロポリスと、猫パンチングだったっけ」

「物と、場所と、スポーツか。三つに共通するヒントがあるはず。まずは、猫柱が立っているネコロポリスへ行ってみよう」

 あたしたち三匹は走り出した。猫ヶ森ねこがもりを抜けると、急に視界が開け、遠く水平線を望むネコロポリスの丘に出た。潮騒しおさいか、海鳴うみなりか、ぐずる女の泣く声か、

 ニャアアアアア

と、空へ吹き上げる音が聞こえる。

「まさか、もうすでに、ここに眠っているなんてことは?」

「それは有り得ません。もし、誰かが埋葬まいそうされたら、ローコー邸で、何らかの動きがあったはずです」

「じゃあ、誰もいないのは、一目瞭然だね」

 三匹は、猫柱ねこばしら墓木ぼぼくが立ち並ぶおかながめて確信した。ここには、いない。

「よし。次へ行こう」

 隣接りんせつする吊り橋へ近づくにつれ、

 ニャアアアアア

という風の音が大きくなっていくのは、気のせいだろうか。

 ニャアアアアア

「あれ?誰か、助けてって言った?」

「ううん」

「誰も、一言も発していませんが?」

 もう一度、耳を澄ましてみる。  

 ニャアアアアア

 まるで、救いを求めるように「助けて」といている。

「間違いなく、助けを求めてる!急ごう」

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