第9話 それさえ知らずに来たのかな
どうせチンケな
それもそのはず、
小型
もの知り猫のリューが言うところによると、映画で有名な客船タイタニック号は四万六千総トン。
二十世紀最大の客船クイーンエリザベス
コンクリートで固められた広大な
週一回の
早速、船から降りてくる観光客と、猫たちの触れ合いが始まった。
「わー、可愛いー」
「猫ちゃーん」
「おいでー」
と、タラップを
「しゃがまないで、先へ進んで下さーい」
と声を
「なに止まってんだ?」
「早く降りろよ」
という不満が聞こえては、やっと列が動き出す。そして、また止まる繰り返し。
埠頭のあちらこちらで、猫をなでたり、抱き上げたり、食べものをあげている姿が
「痛いっ!」
という悲鳴が上がった。一人の観光客が、抱き上げた猫に引っかかれたらしい。顔に、赤い切り
「どうしました?」
清掃用具を持っている島のスタッフが駆け寄った。引っかかれた女性は、
「見てよ、これ。血が出ているじゃないの。顔よお?顔。傷が残ったら、どうしてくれんの」
と
「とにかく、一刻も早く消毒して下さい」
と、
「さ、早く、診療所へ」
と
二人が去ったあとの埠頭では、観光客たちが口々にヒソヒソと、
「猫を強引に抱き上げちゃダメだって」
「引っかかれるに決まってんじゃん」
「無理
「それさえ知らずに来たのかな」
「ここを、どこだと思っているんだろうね」
「ここの猫は、ペットじゃないのに」
「ペットだって、無理やり抱き上げられたら、怒るよ」
「乗船時に渡されたパンフレットにも、そう書いてあったのに」
「事故が起きても知りませんって、乗船を申し込む時、言われなかったのかしらん」
「私は言われたよ。だから、旅行保険に入っておいた」
「ちゃんと言われたはずなのに、守らないから」
どれもこれも一理あるが、傷つけられた上に、悪者扱いされては、踏んだり蹴ったりである。
もし、自分が同じ目に遭った時、同じように、自分を責めるのだろうか?自分を責めて、傷が治るのだろうか?
それとも、引っかかれた女性のように、どうしてくれると他人を責めるのだろうか?
自分さえ正しければ、それでいいのだろうか?他人の間違いを攻撃する資格があるのだろうか?
黒猫クーが、同じことを思ったらしく、
「いくら悪くたって、非難する前に、大丈夫?の一言くらい、かけてあげなよ」
と、観光客の足元でニャーニャー鳴いて
「あら、小さな黒猫ちゃん。お腹が空いているのかな?」
「何か食べる?」
「サンドイッチ、あげようか」
と、一人が紙袋からサンドイッチを取り出して、
黒猫クーは、匂いをクンクン嗅いでいたが、タマネギが入っていたのか、やがてプイと
猫や、犬に、タマネギは禁物で、たまねぎ中毒を起してしまう。貧血、嘔吐、血尿、下痢になる中毒で、
もちろん、大量に食べなければ問題ないが、個体差があるので、食べさせないに越したことはない。
「それさえ知らずに来たのかな。フッ。同じセリフを観光客が言ってたっけ」
▼▼筆者注▼▼
ここから先、ペットの闇を示す驚きの数字(2014年時点)や、現実が出てきます。
現実とはいえ、暗澹たる気持ちになる危険性があります。
気が滅入りそうでしたら、この行を最後に、次のページ(第10話)へ飛んでもストーリーはつながるようになっています。
▲ペットの現実を知っておきたい勇気がある読者さんのみ先へお進みください▲
あたしは、人間の身勝手さ、無責任さに、腹が立ってきた。これだから、捨て犬や、捨て猫が、
あたしたち猫だって、野良猫として、生きたくない。可愛がってくれる飼い主と、死ぬまで一緒にいたい。
「でも、捨てられてしまったら、野良猫として生きるしかない」
あたしの独り言を耳にしたのか、もの知り猫リューが、人差し指を突き立てて反論した。
「いいえ。裏切りという意味でしたら、野良より、悲惨です」
「裏切り?」
「信じきっている飼い主が、動物
「飼い主が、飼い猫を、持ち込む?」
「はい」
「毎年、三万も?」
「はい。飼い犬も、持ち込まれています」
動物愛護センターは、犬猫を、愛して
ただし、愛護センターの名誉のために付け加えると、好きで殺しているのではなく、持ち込む飼い主が
「どのみち、野良になった時点で、殺される運命なんですが」
野良になり、
猫を飼うのと、おもちゃを買う違いを知らない三万世帯の大人たちが持ちこむ、三万匹の猫。
こうして、年間十三万匹の猫が消えていく。
そのうちの九割が、ガスを吸い、もがき苦しみ息
もし、ガスが、
奇跡的に、新しい飼い主に引き取られるのは、わずか一割。
その一割の幸運を、
実験施設へ売り渡された犬猫には、語るも
犬や猫を可愛がる自由は、誰にでもあるが、その自由の裏側には、責任がある。
そんなことを考えながら、あたしは、浮かれる観光客を
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