第8話 猫ヶ島へ寄付せずんば猫で儲けるべからず
ネコロポリスをあとにしたあたしたちは、
吊り橋といっても、
「ネコロポリスって、猫の
先頭を歩くロシアンブルーのシャドーは、
「いないよ」
と答えた。
あたしとショーは、
「いるよ」
と背中で答えた。どうして、あたしたち二匹のみ「いる」と答えたのか、クリスマスの夜に
もうすぐ、橋を渡り終えそうになった時、
まるで、
「おい!前から二番目の三毛猫!さっきは、よくもバカ呼ばわりしてくれたな」
と、がなり立てた。あたしも負けじと、首を伸ばして、
「バカにバカと言って何が悪いんだバカ!それに、あたしには三毛猫ミーって名前があるんだから、覚えときな、バカ」
「一気に四回もバカ呼ばわりしやがったなあ!もう許せねえ」
ブチ猫ブーが
先頭から三番目のショーが振り向いて、
「ここは場所が悪い。回れ右して、逃げろ!」
と、最後尾の黒猫クーへ指示した。
「わかった。逃げるが勝ちだよね。これぞ無敵」
と、二匹が
あたしは正面
「逃げよ?ね?」
と
「待てえ!」
ブチ猫ブーたちが追ってくる。何十匹が橋の上に乗っているのだろう。橋は大きく上下に
「早く!」
橋のたもとで、黒猫クーが待っていた。
「こっち!」
黒猫クーに
「ショーとシャドーに、はぐれちゃったね」
「きっと無事だよ」
猫らしいマイペースで、黒猫クーは
「お
「観光客?」
「うん。さあ、行こう」
「僕も一緒に行っていいですか?」
木の上から、シャルトリューの声が落ちてきた。
シャルトリューという種類の猫は、
「もちろん。一緒に行こう」
友好的な黒猫クーは二つ返事で答え、
「シャルトリューのリューは、もの知り猫のリューと呼ばれているくらい、いろんなことを知っているんだ」
と紹介してくれた。その猫リューが、
「あなたを見るのは初めてですが、新入りですか?」
と
「ん、まあ、ね」
と答えた。
「では、この島の予備知識を授けましょう。ご存じないでしょうから」
と、人差し指を突きたて、説明してくれた。
「寄付?ペット業界って、寄付できるくらい儲かっているの?」
と、もの知りリューへ訊ねると、
「儲かっているかどうか分かりませんが、ペット業界は、スポーツ用品業界と肩を並べる規模の大きさです」
「スポーツ用品と比べられても、ピンと来ない」
「たとえば、化粧品業界よりも、市場規模は大きいんです」
「へえ」
「カタログ通販業界や、喫茶店およびコーヒーチェーン業界よりも大きいんです」
「分かった分かった。儲かるから、みんな参入してくるんだろうね」
「市場規模は一兆二千億¥。中でも、ペットフード市場が最も大きくて三千億¥。メーカー数は百社ほど」
「100!そんなにあるの」
「ペットフードだけで、クリーニング業界や、カラオケ業界に引けを取らない大きさです」
「ペット業界のうち、ペットフードだけで?」
「ひとくちにペットフードといっても、ドライフードや缶詰、カップ型、真空パック、レトルトパックといった
「たとえば?」
「パンとか」
「パン
「他にも、牛乳、ケーキ、せんべい、おせち、弁当、ラーメン、たこ焼き、ビール、ワイン、スポーツドリンク、アイスクリーム……」
「分かった分かった。他に大きいのは?」
「動物病院の二千億¥」
「残る八千億¥は?」
「ペット服や、トイレや、カート
「残る四千億¥は?」
「沢山あります。まず、登録件数が一万五千軒のペットショップ」
「ペットの
「二万人のブリーダーや、卸売や、オークション販売は別に勘定するとして……」
「それらは含まれないのね」
「ペットショップ一万五千軒は、小さな町の人口に匹敵する数です」
「中には悪質な業者もいるみたいね」
「その一部の悪質な業者のせいで、大多数の善良な業者が
「
「そうです。
「ほぼ善良な獣医なんだけど、ね」
「獣医と来たならば、ペット用の
「インターネットでも買えるみたいね」
「
「犬猫合わせて?」
「はい。ペット全体です。
「ふうん」
「保険を売る
「いずれ、保険金
「保険とくれば、ペット葬儀にペット霊園。ぜんぶ合わせて二百五十億¥」
「二百五十ねえ」
「ペットと一緒に泊まれるホテル、ペットと一緒に旅行できるペットツーリズム」
「どこまで一緒にいたいの」
「ペットマッサージに、トリマー。美容室ですね」
「マッサージ?お金を払って、自分のペットを、他人にマッサージさせるの?」
「はい。マッサージ師というよりも、
「試験!」
「トリマーも同じです。美容師というよりも、病気を発見する獣医に近いかも知れません」
「獣医がいるのに?」
「獣医と違って、資格は必要ありません」
「誰でも、なれるんだ」
「しかし、現実的には、試験に合格し、トリマーの資格がなければ、トリマーになれないでしょう」
「就職しづらいってことね」
「まだあります。移動シャンプーカー、ペット型の動くロボット、猫カフェ、ドックカフェ」
「分かった分かった」
「それらペットビジネスが専門の経営コンサルタントまでいます」
「ペットビジネスを相手に、ビジネスしているの!」
「それを言ったら、ペットシッター資格講座や、ペットビジネス学科なんて学校まであります」
「こうして
「ペット業界には『
「猫で食べさせてもらっているのに、猫に食べさせないのは、おかしいってことね?」
「はい。猫で商売させてもらうけど、利益は還元しない、独り占めするなんて、
「ペットは、身近な存在だからね」
「単純計算で、三世帯に一世帯が、犬か、猫を飼っていて、バブル
「5%?よく分かんない」
「バブル景気の
「それだけ好景気な業界ってことね」
歩きながら話しているうち、港へ出た。ちょうど、船が入港したらしい。
ペットフード名の入ったダンボール箱が、大量に陸
その電動フォークリフトは、次々、トレーラーつきの大型トラックが何台も入りそうな巨大倉庫へ吸い込まれていく。
「あれは?」
「僕たちの食事。ペットフードメーカーからの寄付」
「何百箱あるんだろう?あんな大量に」
「僕たち猫のことを心配してくれている証拠です」
「違うね」
と、あたしは思ったが、口を閉ざしていた。
確かに、猫を可愛がる気持ちは、あるだろう。しかし、ペットフードメーカーにしてみれば、ボランティアではなく、商売である。商売は、情で動かない。利益という利で動く。
「やってやった。やってもらった」
という、どちらか一方が負担する危険性を
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