第314話 人工知能、会談に臨む~前編~
『現在もケイは発見されていない。また、昨晩私達を一時的に無力化した脅威についても調査中だ」
「シックス。てめぇの
『魔力不全は軽度のものであったため、稼働に支障はない』
「悪いな……今はお前が頼りだ」
「……悪いな。ケイの事と同時並行して、お前に一つ頼みたいことがある」
『問題はない。私はあなたに従属している。あなたの命令が、私の理由だ』
「……従属なんて言葉は使うな。命令なんて概念もだ。嫌だったら否定すればいいんだ。ディードスに買われ、飼われていた頃の命令だけが取り柄の道具は、もうあっちゃならねえ。俺たちは
『……』
「お前はクオリアを真似して、その話し方になったんだったな」
『肯定』
「奴の事を称賛する気は無いし、“心が大事”とか吐きそうな奇麗ごとを並べるが、それでもやりたいようにやっている……そこを学んだらどうだ」
『……』
「で、頼みたい事だが、待機している他の
『了解した。これから4時間以内に参集可能だ』
「……ギリギリだな。仕方ねえ。俺も決断が遅れた――デリートがここまで早く来るのは想定外だった」
無機質な天井に、雨空を反映させる。
「本当は晴天教会を滅ぼして、かつ出来る限り“虹の麓による犠牲”は減らしたかったんだが……この霊脈が“虹の麓”には必要不可欠だ。デリートに滅ぼされるくらいなら、その前に俺が使い切ってやる。“虹の麓”の、麓として」
『……状況理解』
「だが、あくまで最終手段だ」
見上げていた天井の向こう。
きっと、“父親”はいる。
「絶対に、晴天教会も、テルステル家も――ランサムも、デリートも、俺も、せーので地獄に落ちなければならない」
『……』
まるで機械の様に淡々と話す
数分後、思い出したようにシックスからの反応があった。
『
「なんだ」
『あなたは“心が大事”という内容を軽蔑しているが、それでも私達に心をくれたのは、あなただ』
誰もいない地下室の中、格子から
「感謝はよせ。“心”程、残酷なものはねえんだ」
『それなら、あなたは、何故私達に心を与えたのか』
■ ■
教皇を招く際は、それ相応の待遇で迎えなくてはならない、というのが人間特有のプロトコルの一つらしい。この“待遇”と“対策”にどのような違いがあるのかはクオリアには分からない。今自分が立っているホールが果たして教皇が居るのに相応しいかどうか、そんな美的センスを人工知能は有さない。
とはいえ、堅牢で広々としたテーブルに座る人間の位置、更にラック曰く霊具と呼ばれる“神聖なモノとしてカテゴライズされる”アイテムの置かれている個所はラーニングし終えている。
人工知能にとって、視界無しの暗算は朝飯前だ。
「じゃあ、始めようか。あまり互いに残された時間は少ないし」
「あら、どうしてあなたが時間を気にするのかしら? ロベリア」
「だってデリートがいつ来るか分からないでしょ?」
ロベリアがニコリともせず言うと、一瞬ルートやランサムの顔が固まる。
「だから言ったでしょ。互いにって。デリートについては知ってるよ。聞いた人物像通りなら、ローカルホストを新しく与えられた玩具の様に見てて、実際に直接触りに来る。遠くから投げた緋い槍をはじき返した、このローカルホストにね」
「……」
「その顔を見るに、図星みたいね。でも家族三人で仲良く早く帰る方法なら、腹案があるよ――って私が音頭取る資格はないか」
ロベリアが両肩を竦めると、サーバー領の領主であり、会談の片側の主を務めるラックが手を挙げる。すると同席していたラックの配下達が、ランサム側の従者であるマスを通してランサムに一枚の紙を手渡す。クオリアには色の度合いは分からないが、何か魔力が宿った特殊な羊皮紙である事は間違いない。
羊皮紙の端を掴むランサムの指に僅かに力が籠ったことも、ルートが思わず唸りそうになったことも、真っ暗な視界から検知した。
「随分と冗談めいた事を、教皇に出せたものだ……ラック」
「いいや。我々は本気だ」
――そもそも、この会談の目的は何か。
“正統派”側がハルトを取り返す事ならば、クオリア達は会談『二度とランサムやルートがサーバー領に攻め込まない』という状況を創り出すことが絶対条件だ。だからといって、素直に『二度と俺達の領域に踏み込むな』なんて約束を結んでも、ランサム達はまた約束と領土を簡単に踏み滲ってくる。いかに教皇と交わしたと言えど、
ならば“要求”はランサム達から力そのものを奪うものでなければいけない。
それを前提に置いた上で、提示された三か条には、次の言葉が解釈の間違いようもなく、記載されていた。
一、“正統派”のサーバー領からの兵力撤退並びに、以降の侵入の禁止。
一、
一、半年前、王都でランサムと教皇が繰り広げた“革命”の悪行を曝け出す事。
これらが全て果たされた時、ハルトは命を保証するとともに、ランサムの下へ返還するものとする。
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