第275話 魔術人形、とうとう。
“
それどころか、逆に広がっている。
「……ぐっ!」
ケイの人工魔石に、反応が跳ね返ってくる。
秒ごとに何発ものボディーブローが食い込んでくる感じだ。シックスやマリーゴールドも明らかに同じ
ピラミッドを収縮せんとする力に、何かが抗っている。
だが物理的に押し返す等、不可能もいい所だ。押そうと着いた掌から順番に“
当然、中にいるクオリアが起因している。
クオリアの最適解が、的中している証拠なのだ。
「クオ……リア……これ、お前の為に、対策した、奴やの、に……!」
クオリアとエスの最適解は、至極単純。
“
「続けて
極限まで凝縮された高密度の
最終的には
しかも同一箇所に間髪入れずに、マグナムモードの超強力な
そもそも“
――先程エスを助ける時、クオリアは認識していた。
最初に試験的に放った
直ぐに損傷個所は補填されていたが、
“
また範囲を収縮は出来るが、どこまで拡大することは出来ないとクオリアは予測していた。だからこそ、連射可能な範囲における
とはいえ、クオリアの二本の腕だけでは、同時に二発までしか放てない。これではジリ貧だ。
長期戦になるならば、コネクトデバイスによる遠隔誘導で操作する訳にはいかない。脳への負担は、出来る限り避ける様に医者から言われている。
しかし今、クオリアの隣には。
千手観音の如く、無限に手を作れる仲間がいる。
結果。
何十発ものマグナムモードの
「フォトンウェポンの照準制御が困難です。
「照準を一度定めたら、そこで枝を固定化する事を推奨する。その際、トリガーを引く箇所のみ、流動的に動かす事は可能か。可能な場合、誤差は最低限に抑えられると推測」
「分かりました。試してみます」
エスの背後に聳え立つ、
その先端の一本一本が、フォトンウェポンのトリガーを括りつけた砲台だ。
全て“
「ケイ、このままだと、維持が出来ません、マリーゴールドの魔力も……」
「……堪えるんや、まだや、もっと魔力の供給を増やして、抑え込んで……!」
またピラミッドが僅かに後退した。
その度、“
ケイ達の魔力消費を余儀なくされる。
しかも
『Type GUN MAGNUM MODE』
『Type GUN MAGNUM MODE』
『Type GUN MAGNUM MODE』
生成されたフォトンウェポンのトリガーを、更に枝分かれした
『
『
『
そうしてエスの存在認証を成功させ、稼働しているフォトンウェポンは現在――135台にまで登る。
加えて、クオリアが両手に握っているロングバレルでプラス2台。
計、137もの銃口から、一切故障もエラーも無く
「……予測修正、無し」
そして。
“
■ ■
「あかん……!」
“
故に形を維持できず、“
ケイもシックスも、しかしまだ完全な魔力切れではなかった。
しかし一人だけ。
雨水に塗れて倒れていたマリーゴールドが、人工魔石に異常を来たしていた。
とっくに、“
「マリーゴールド!」
「……憎いわ……この“不良品”の……
まだ発音機能は残されているが、完全に危険域にまでマリーゴールドの魔力は擦り切れていた。
魔力不全。
“
立てない程の疲弊。短く連続する呼吸と喘ぎ声。
このまま放っていたら、最悪完全に機能が停止する。
人間風に言えば、“死ぬ”。
「マリーゴールド……」
「変な顔、じゃな……儂にいつも……悪態ついとる……お主らしく、ないぞ……」
ケイの顔が、青ざめていく。
先程までクオリアに啖呵切って、憤怒に満ちていた魔術人形らしからぬ雰囲気が、剥がれて失せていく“
「儂もケイの言う事、正直分かってしもうたから……お主の馬鹿を事前に止められなかった……責任があるからの……へっ、これでは、
息も絶え絶えに、しかしケイの頬を撫でる様な言葉をかけた丁度その時だった。
クオリアとエスが、充分近くまで来たのは。
「予測修正、なし」
「……ここまでか、って奴やな」
倒れたマリーゴールドだけではない。
ケイもシックスも、もう逃げるだけの余力位しか残っていない。スキルを放つ魔力は、もう一発分も残されていない。
クオリアとエスに対抗できる手段は、もう三人の魔術人形には何も残っていない。
「あなた達を、ラック侯爵邸まで連れていく。魔力が回復した時の事を考慮し、
「……クオリア、よいのか? 私達を、無力化とやら、しなくて……」
「十分に無力化されている。マリーゴールド、特にあなたは、予測を超えて消耗している」
「……お主も知らん事じゃろうが、ちと儂は特殊でな……しかも悪い方向に」
エスが前に出てきて、倒れて今にも壊れそうなマリーゴールドの全身を一瞥する。
「マリーゴールド。やはりお前は、“不具合”が治っていなかったのですね」
「……
「エス、説明を要請する。マリーゴールドの“不具合”とは――」
途端、クオリアに近づく影があった。
マリーゴールドから盗んだナイフを握って、マリーゴールドとクオリア達の間にケイが割って入る。
ナイフの刃をクオリアに向け、シックスに指示を出す。
「シックス、マリーゴールドを連れて逃げるんや」
「ケイ、待つのじゃ……三人で逃げるのじゃ……それか、儂を、置いていけ……」
「魔力ゼロの魔術人形を置いても、足止めにもならへんやろ。ワイが、スクラップには適任や」
ケイがもう一度前に目を向けると、
「ケイ。戦闘の停止を要請します。もう一度、チョコバナナを食べて、あなたと会話がしたいです」
「チョコバナナなんて、不味かったわ」
「ケイ。お前は誤っています」
「かもな。それでも」
それでも、ケイは退かない。
魔術人形が道具として扱われない世界の為に、自分以上に誤っている世界を正すために、もうそのチョコバナナを食べる訳にはいかない。
だから不味いと、言い聞かせた。
「それでも」
――雨と一緒に、
「最適解、変更」
いち早く察知したクオリアは、エスを抱きかかえて後ろへ飛ぶ。
一方水飛沫を上げることなく、波紋一つのみしか立てずに
勿論、ケイの前に。
「
「仲間だろ」
それだけ言って、未だ傷塗れの体で構え、クオリアに冷たく言い放つ。
「やるか。第三ラウンド」
ただし。
もうここで、“第三ラウンド”が行われる事は、無かった。
「最上位の脅威を認識」
淡々とした声が、この瞬間だけは妙な抑揚が着いていた。
焦燥が、見上げるクオリアの声に乗っていた。
「あれは……」
クオリアだけじゃない。
朱く燃え上がる、巨大な槍がこちらへ飛んできていた。
果てしなく遠い。だが早い。三十秒もしない内に、このローカルホストに炸裂するだろう。
それだけの距離にも拘らず、ひしひしと肌に伝わるエネルギー。
クオリアの口から、あの朱い槍が齎す影響について、演算結果がぽろりと零れた。
「ローカルホストを含む50km圏内が壊滅的な損傷を受けると判断」
それは、古代魔石“ブラックホール”の起動時の影響範囲、影響度とほぼ同じだった。
「“
後ろで
「デリートが、もう動きやがった。奴の射程圏内だったんだ」
■ ■
デリート。
正式には、デリート・ルーデル=テルステル。
ランサム公爵の長男。
『最強の騎士は誰か?』
という問いがあったとする。
15年前の戦争を知っている人物なら、間違いなくこう答えるだろう。
『デリート』
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