第228話 人工知能、ふざけた神話を焚書する⑤
十二の
まだ放っていないし、完成もしていない。溜めている最中だ。
にも関わらず、ギギギギギギギギギギギィ、とはち切れんばかりの“
「チャージ完了まで25秒」
砲身の後ろ部分から蜘蛛のような四本脚が飛び出し、地面に固定される。
狙いは完全に定めた。後は
しかし敵は生憎、竜巻を操る白龍。25秒間は何もしないで乗り切るにはとても長すぎる。
クオリアの目前で、残りのフォトンウェポンが銃口を白龍に向け、整列する。
「
竜巻の回転を完全に読み切った無数の光が、触れる雨粒を蒸発させながら予定調和の軌道で
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
だが、心臓まで震わす様な魔物の咆哮があった直後。
「えっ!? こっち戻ってきたよ!? うわっ!?」
クオリア達目掛けて降り注ぐ
「状況分析。風の種類を変更したものと推定」
「いや君なんでそんな冷静……うっ……」
遅れてバリアを、真上から不可視の力が踏みつける。
それは、白龍を騙る怪物から放たれた、空気の層。螺旋を描く竜巻ではなく、一方的にキルプロからクオリアへ押しかける突風。
螺旋を想定して放った
『クオリア。まさかあの程度で
「予測修正無し」
『は?』
勝ち誇ったようなテレパシーが情けない声に変ったのは、その直後だった。
『Type SWORD BARRIER MODE』
「チャージ完了まで、後15秒――
絶対不落の
「キルプロ。あなたは想定通り、
“
その状況をキルプロが更に攻略する事す、らクオリアは予測していた。
予測して、30秒以内に白龍が絶対に突き破る事の出来ない、絶対防御のフィールドを創り上げた。
つまりチャージの時間を凌ぐ為に、クオリアが強化したのは攻撃ではなく、防御だ。
後は安全地帯で、チャージ完了を待つだけとなった。
だがクオリアの周りで一つ、想定外の事態が発生していた。
「最適解変更、
■ ■
「……切札を、貴様の切札を封じてやったというのに……」
人間でも、人形でもないようなクオリアの瞳を見て、キルプロは歯軋りをした。
今までこんな事はなかった。テルステル家の力で出来ない事など無かった。
ユビキタスの敵を前にして、ここまでしてやられた事がキルプロには無かった。
「……許せん……許せんぞ!!」
悲憤慷慨し、膨れ上がった苛立ちを発散しようとするが、かの“兵器”の危険性は、キルプロも認めざるを得ない。急いであのバリアを破壊し、クオリアを今度こそ地獄へ叩き落とさなければならない。
「なれば今度こそ、その鬱陶しい盾を我が力で取り払い、神に取って代わろうとしたその傲慢を後悔させてやる!!」
そう叫びながらも、キルプロが次に見たのは右方向だった。
憤怒に駆られながらも、最低限の冷静さは保っていた。
「当然牽制役にお前が来るよな!?
「……クオリアに横取りされる前に、この手で始末したいだけだ」
「馬鹿め! 人が龍に敵うものか!」
怪獣の緋色の鉄槌が、像が蟻を潰すように、
「がふっ……」
人体を一瞬で蒸発せしめる緋色が
灰になるその瞬間まで、遠くなる影をキルプロが見届ける。
「鋼だろうと粉々にする白龍の力。五体満足なだけ誇るがいい……ん?」
にも関わらず、
「何故生きている……」
しかも“
想定外が、また一つ増えた。
「しかも“
「ふー……ふー……」
「
かなり大きなダメージだった事は間違いない。
だがキルプロとしては何故ここまでテルステル家に憎悪を向けているのか、全く分からない。気持ち悪い。
「何故貴様はそうまで
「……俺は、てめぇらテルステル家の影法師だ。ずっと、てめぇらと共にあった」
「俺達の……テルステル家の、影法師?」
フードと狐面の下のヒントを、
静かに。ゆっくりと。
上がり始めた幕の様に。降り始めた小雨のように。
「傍でテルステル家の暗黒を見てきた。嘲笑を聞いてきた。
「何を言っている……!?」
「逆恨み? 復讐? 俺に、最初からそんな資格はない。贖罪と義務だ。てめぇらテルステル家を皆殺しにすれば、ラヴが望んだ“楽園”を世界に創造すれば、俺は、やっと終われる」
また
しかし結果は逆だった。
弾かれたのは、体格差では何百倍も勝っている筈の
「てめぇらは、間違っている」
「……なっ……」
落雷が照らす。
気づけばキルプロのほぼ目と鼻の先にいた。
背筋が凍る。
反射的に
「速……」
最早キルプロの眼に
キルプロも“縮地”使いと刃を交えた事があるから実感できる。
聖剣聖が使うという“乱魔”のような、歩法と小手先による分身ではない。
純粋に、速い。
身体能力が、人間をはみ出しているなんてものじゃない。
身体能力が、生物という枠組からすら抜け出している。
「ずっと、てめぇらを、殺したかった――」
疾駆の速度は、完全に次元を超えていた。
出鱈目過ぎる軌道。不規則過ぎる軌跡。
縦横無尽に雨空を駆け巡り、一瞬残像として留まる。
「ずっと、てめぇらの近くで、我慢していた」
「うわ、わ、わ」
四方八方から衝撃が襲い、キルプロを振り回す。
一撃一撃が、体格差を無視して
「ずっと、ずっと、ずっと――」
「ひっ……なんだ、こいつの力は……人間なのか!?」
完全に力負けしている。
その度に例外属性“恵”で回復するも、回復した先から構わず
正真正銘の獣が、そこにはいた。
(――30秒は経ったはずだ。何故クオリアは撃たない)
だが、一方
クオリアが“チャージ時間”と言っていた30秒をしっかりカウントしていた。それまでにキルプロを仕留める必要があったし、間に合わなければ“牽制”の役割を終えて発射直前に離脱するつもりだった。
だがクオリアは、フィールと一緒に上空を見据えたまま動かない。
クオリアの鼻から、血が出ているのを。
「やっぱ脳に凄い負担があるようだな……にも関わらず、俺がどくまで撃たないってか。まぁ、勝手にし――」
勝手に制限時間を増やしてくれるなら是非もない。このままキルプロだけは潰す。
そう意気込んだ途端だった。
『あなたと、ラヴの理解を
言えるわけがない。
あの時の無機質な表情に、遠い記憶の向こう側にいるラヴを重ねたなんて。
「……ちっ」
そして
キルプロもその行動を飲み込めず、一瞬停止した――それが隙だった。
500メートル下方。
フォトンウェポン最大火力のトリガーが、引かれた。
「
彗星が、駆け上がった。
星さえ貫きそうな破壊の光が、真っすぐ
「――!!」
ボロボロの
だが今度は、螺旋の突風を利用されたとかそんな生易しいものではなかった。
単純に、
「
閃光に眼を眩ませながら、キルプロは敗北を悟って叫んだ。
「く、くそおおおおおお!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その直前、キルプロは一人森の中へ飛び降りた。
残された
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