第225話 人工知能、ふざけた神話を焚書する②
「最適解、算出」
改宗者1000体を、クオリアは脅威と判定しない。
確かに“美味しい”を奪う存在なのかもしれない。
だがそもそも、その前に“美味しい”を永遠に奪われた存在だ。
だから、クオリアはある
怒りと定義される、
「何をする気だ」
「……
「根本的解決にならねえだろ。こいつらは俺らを殺すまで止まらねえよ」
「一時的に回避できれば問題はない」
実際、改宗者の相手は
先程、手段は不明だが
一方、クオリアは例外属性“恵”の魔石への
そして改宗者はダンジョン最下層の魔物に匹敵する強度の上、
無力化には、魔石を外すか、大部分を消滅させる必要がある。
『Type GUN MAGNUM MODE』
『Type SWORD BARRIER MODE』
「
「……分かったよ。好きにやってろ」
「えっ」
戸惑うフィールを掴んで、
『Type GUN MAGNUM MODE』『Type GUN MAGNUM MODE』
『Type SWORD BARRIER MODE』『Type SWORD BARRIER MODE』
改宗者達が同じタイミングで、例外属性“焚”を、緋色の波動へと変換していく。
一人を火炙りにするどころか、一つの街を大火で簡単に滅ぼせそうなエネルギーが、千個分検出された。
『Type GUN MAGNUM MODE』『Type GUN MAGNUM MODE』『Type GUN MAGNUM MODE』『Type GUN MAGNUM MODE』
『Type SWORD BARRIER MODE』『Type SWORD BARRIER MODE』『Type SWORD BARRIER MODE』『Type SWORD BARRIER MODE』
クオリアは、それを阻害することなくひたすら“フォトンウェポン”の生成を続ける。両の掌では足りない数のフォトンウェポンが、辺りに転がる。
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「すべての“コネクトデバイス”が、正常に作動している事を認識」
足元に転がった大量のフォトンウェポン達の“合唱”を聞きながら、クオリアは怒っていた。
怒っていた。
「クオリア!!」
少女の叫びと同時。
ハルトが先程放った例外属性“焚”による超高火力にして灼熱の波。
“
それが、1000人分。
1000の“
世界が、震えた。
離れているフィールをも呑み込もうと、余波が迫る。
「……そんな」
フィールが眼を開くと、地獄が召喚されていた。
惨憺たる焼け野原。
泥濘と水たまりは深紅に瞬く溶岩と化し、草木は炎の中で灰へと帰る。
人外の色をした改宗者達が、敵を求めて胡乱に彷徨っている。
これが地獄でなくて、何だというのだ。
世界の終わりでなくて、何だというのだ。
『……おいおい。初手で終わりか。絵にすらなりゃしない。まったく溜飲が下がらないのだが、まだ生きている二人で何とかしてくれるのかなぁ』
例外属性“詠”によって頭に響くキルプロの溜息が決定的になった。
「クオリア……」
着いた膝を泥水に浸すことも構わず、フィールは絶望していた。
「
光があった。
「残り、999体」
『なにっ!?』
一条だけではない。
二条、十条、百条――無数の
「残り、927体」
地獄のあちこちで、改宗者が光に包まれる。
「残り791体」
『……馬鹿な、こうも俺の改宗者が、俺の手を離れていくだと……なんだ、何が起きているのだ、そもそも何故クオリアが生きているのだ』
地獄の中心で、光の渦の中心で。
文明の光に晒された、眠れない夜の
一切無傷のクオリアは
「残り652体」
しかしクオリアはフォトンウェポンを握っていない。
だが極太の
多すぎる
「クオリアの武器が……浮いてる」
「……あのフォトンウェポンって武器、自律して動いてやがる」
フォトンウェポンが、飛んでいた。
そして独りでにトリガーが引かれ、自動で高出力の
数十丁も、浮いている。
「残り501体」
その数十丁のフォトンウェポンをクオリアは握っていない。
しかし、誰に握られていないにも関わらず、妖精のようにクオリアの周りを駆け巡っている。
「各フォトンウェポンに搭載された“コネクトデバイス”、並びに“ドローンアーマー”に異常は無い」
それが、今回クオリアが叩きだした応用解だ。
コネクトデバイスを経由して、全てのフォトンウェポンを手動ではなく脳波でコントロールしていたのだ。
加えてドローンアーマーも応用し、フォトンウェポンに飛行機能を付与したのだ。
結果、重力すら無視した遠隔誘導攻撃兵器が誕生した。
『……流石に神へ抗う敵として認めざるを得ないだろう』
鮮やかなイルミネーションを白龍から見下ろすキルプロの声は、流石に苦笑いになっていた。
『なればこそ、今度こそ愛おしい改宗者達が圧し潰してくれよう――!!』
キルプロが雨雲に手をかざす。呼応して改宗者達の体が更に緋色に瞬く。
先程よりも高濃度の例外属性“焚”が、改宗者達に宿ったのが検出された。
“
『さあ改宗者よ、今こそ全力の“
半分以下に数は減っているが、先程の1000体分よりも凄まじい、全力全開の“
しかし、クオリアは目を逸らさない。
「
クオリアが号令を脳波に乗せて出力した途端、筒状のフォトンウェポンからバリアが咲いた。
勿論一つではない。
数個のフォトンウェポンが、より強靭な
一層、二層、五層、十層と、クオリアを全方位から包み込む。
怒涛の緋色は、確かにバリアを突き破った。
だが最初の数層を打ち破った所で魔力を失い、暗黒と同化していく。
『……馬鹿な、俺の全力の“
これが、クオリアは先程も無傷だった理由だ。
「残り119体」
クオリアは残り少なくなった、まだ救われない改宗者達を眺めていた。
「……っ」
しかしクオリアの顔が僅かに滲む。
脳が、熱い。
「ノイズが大量に発生。状況分析……!」
そもそも脳波で百に近い武器を遠隔精密操作しているという特性上、そもそも人間の脳で引き出せる演算範囲をとうに超えている。
しかしクオリアは最適解を止めるつもりはない。
何故ならこのノイズは、脳の疲労だけが由来ではない。
心が、軋んでいる。
あのバックドアと対峙した時のように、怒りの熱が冷静さを奪っていく。
「……あなたたちは、“美味しい”を永続的に、失った」
感情のノイズは、目前で散っていく改宗者からインプットされる。
「あなたたちは“改宗者”のカテゴリに属するべきではない。あなたたちは、“人間”だ」
改宗者とは、元は人間だった。
必死に生きていた、“美味しい”の可能性がいっぱいあった人間だった。
無題の作品では無く、名前も人生があった人間だった。
そんな事、人間として産まれて、まだ一ヶ月しか経過していないクオリアでも分かる。
しかし白龍の玉座から見下ろす神様気取りの脅威は、それをすっかり忘れている。
「キルプロ。あなたには、この声は聞こえないと判断する」
近くで、改宗者が一人
「しかし先程からインプットしているあなたの声から想定する。あなたは、改宗とは即ち、“死”を与え、“美味しい”を奪う禁則事項にも関わらず、それを理想的だと判断している」
クオリアの後ろで、また改宗者が一人、星になった。
その改宗者で、最後だった。
「改宗者の全無力化を確認」
『俺の……コレクションが……』
「エラー。コレクションとは人間に相応しい言葉ではない」
全員、キルプロのコレクションから解放されたのだ。
もう、誰も改宗者として、死後の体をぞんざいに扱われていない。
「キルプロ。改めてあなたに宣言する。あなたはこの先多くの“美味しい”を間違いなく破壊する存在と認識」
「あなたは誤っている。あなたは確実に排除する」
御伽噺の白龍が“美味しい”未来に立ち塞がるならば、その神話を覆すのが人工知能の役割だ。
「クオリア。半年前に、てめぇが王都に来ていれば、ラヴは」
そして、
『図に乗るなよ、異端共が!!』
思い思いに見上げる二人の戦士と一人の修道女へ、神の災害たる“緋色の竜巻”が穿たれた。
地から見上げるはクオリアと
対し、空から見下ろすはキルプロと“白龍”。
スイッチ最後の
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