第201話 人工知能、修道少女の正体を知る

「……さっき私達を襲ったメール公国の本隊……」


 メール公国。アカシア王国の隣にあるこの国は、つい先日まで内紛の真っ只中にあった。結果“げに素晴らしき晴天教会”の正統派を重んじる一派が勝利を納め、国を支配する事となった。

 しかしそれもつい先日の話。このような騎士団を集めて統率し、アカシア王国内に、それもサーバー領内に攻め入る動きまでは予測が出来ていなかった。


 予測が、最悪の形で外された。

まだ大人数の流れの力学は、クオリアでも把握しきれていない。


「……いくら何でも、この周りを守る諸侯は何してるの!? さっきの数人単位ならいざ知らず、なんでメール公国の騎士軍団がこんな所にまで……」


 地理的に考えれば、メール公国がこの“スイッチ”に攻め入るまでに2、3の領地を越えなければいけない。だが何の連絡どころか情報も舞い込んでこなかった所を見ると、その領地はメール公国と共謀している。


 あるいは、メール公国の背後にある“げに素晴らしき晴天教会”に屈したのだろう。


「状況分析」


 狼狽が隠せないフィールとは対照的に、クオリアは目前の戦火を俯瞰する。


 現実を見る。

 状況分析をアップデートさせる。

 今自分に出来る最適解を練り直す。


「まずはフィール、あなたと子供達の安全を最重要事項として最適解を算出する」

「うん……この子達は十分な試練を受けたよ。もうこれ以上危険な目には合わせられない。でも……」


 

剣が一振りされ、一人の騎士が倒れた。

 強力な魔術が放たれ、数十の甲冑が原型を忘れて彼方へ吹き飛んでいく。

 

 その震える戦場は、寄りにもよって馬車が通る林道にまで及んでいた。


「今、スイッチに行ったらあのメール公国の軍勢が押し寄せるかもしれない。そもそも、スイッチまでの道が……あれじゃ通れない」


 呼吸する様に生命が晴天へと還る戦場のど真ん中を、この馬車は駆けなくてはならない。

 無関係だから見逃してもらえるなど、温い。

 子供だから許してもらえるなど、甘い。

 

 メール公国の騎士達が、サーバー領の人間を全員異端と捉える“正統派”の集まりであるとしたら、そこに一切の慈悲は無い。

 子供であろうと異端ならば焚刑にするのだろう。

 それを実感する事態が、直後に起きた。


「脅威を認識」

『Type GUN』


 クオリアがフォトンウェポンを向けた先、茂みから数人の騎士が出てきた。明らかにメール公国の甲冑だった。


「っと……仲間と逸れちまったと思ったら、運がいいぜ。寄りにもよって異端を広める修道女に出会っちまった」

「うおっ、しかも極上の女じゃねえか……!」


 明らかな敵意と悪意に従って、剣を握ったまま迫ってくる。歯軋りをするフィールの隣で、トリガーを引こうとした直後だった。


「ん?」


 騎士の一人が、何かを思い出したように訝しむ。


「どうした?」

「いや、この女確か……フィール=サーバーって言って、

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