第199話 人工知能、修道少女と共に街に向かう
コネクトデバイスが稼働する。
通信状態は良好。示された位置情報は、アイナ達が先程の地点から動いていない事を示していた。
既にキロ単位で離れていた少女達と、距離の壁を無視して現在の状況を伝える。
メール公国の騎士が、何故か進攻してきている事。
“改宗”され、人を襲った死体の事。
そして悪辣な騎士の手から、修道女と子供達を助けた事。
それらを伝えた上で、今後の活動を提案する。
「フィール達へこの後の進路をヒアリングした結果、“スイッチ”に向かっている事を確認した。これは、
クオリア達が現在向かっている街も、“スイッチ”である。サーバー領の領主がいる街には、この“スイッチ”を経由して向かうのが定石だ。
「またメール公国の騎士、もしくは“げに素晴らしき晴天教会”の進攻騎士が脅威となる恐れがある。
『分かったわ。でも移動手段は大丈夫なの?』
「フィール達を連れていた馬車の御者、馬も生命活動は停止しているが、馬車はダメージは受けていない。また、メール公国の騎士が所有していた馬を活用する事で彼女達を街まで送ることは可能だ」
フィール達が乗ってきたと思われる馬車の隣で、クオリアは律儀に繋がれている馬を見た。メール公国の騎士達が乗ってきた馬だろう。
馬術は、ここに来るまでの御者の動きからラーニング済だ。馬と馬車を繋ぐサスペンションや手綱は5Dプリントで代替が可能だ。
『クオリア様、どうか気を付けて……何かあればコネクトデバイスで連絡ください』
「アイナ、安心を要求する。あなたも異常事態の場合はコネクトデバイスでの通信を要請する」
会話を終えると、クオリアはフィールと子供達の所へ向かった。近づくにつれ、あどけない涙声が木霊する。
「パパ……ママ……」
“美味しい”とは対極にある悲しい値だけが、くしゃくしゃな泣き顔から検出された。子供達が縋る先には、物言わぬ親達が整列していた。
必死に親の亡骸を揺する子供達の涙を、隣で修道女が受け止めている。
「フィール様ぁぁ……!」
「お父さんとお母さんは、立派に戦った……だから、ユビキタス様が思し召しとして、あのクオリアっていう救世主を遣わせたんだよ……命一杯お祈りして、ユビキタス様の下に召されるようにお願いしようね」
“げに素晴らしき晴天教会”の象徴たる太陽のペンダントを子供に渡して握らせると、一緒に胸に太陽を示す円を描いた。
「天にまします現人神ユビキタス様。どうか御身の太陽へ参る魂に、至福の平穏を……」
そうして遺体へ頭を垂れるフィールと未だ泣き声が収まらない子供達の背中を見る。
彼女達が行っているのは、“弔い”だ。
一ヶ月前、弔いの花を売ってくれた女店主の発言が想起される。
『別に弔い方は花を添えるじゃなくてもいいのさ。晴天教会は胸で太陽を描いて弔う。遠くの別の宗教では火を焚いて弔う。みんなやり方は違うし、そして私の知る限り本当に霊と会話できる弔い方なんてない』
クオリアは神の存在を否定している。
だが、これがフィールなりの弔い方ならば矛盾は無い。
少なくとも真剣に死者を想うフィールの横顔からは、虚偽の値は読み取れない。
「あなた……」
フィールの横に、クオリアも並んでしゃがみ込む。
死亡した人間達の面識は、クオリアには無い。どのような
「“こども、たちは、
添える花も無い、たどたどしい言葉を口ずさむクオリアに、全員が注目した。
太陽を描くことはしない。それはクオリアの弔い方ではないからだ。
その後、5Dプリントで生成した布で遺体を包み馬車に乗せつつ、泣き疲れた子供達を馬車に乗せる。
クオリアが馬車の最前列、御者の席に座り手綱で馬を叩く。ラーニング通り、再び動いてくれた。
位置関係的にも、この分ならアイナ達よりも早くスイッチに着きそうだ。
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