第196話 人工知能、動く死体と戦闘する①

 荷電粒子ビームに撃ち抜かれた騎士達は、土に塗れて藻掻き喘ぐ事しか出来ない。

 そんな無様に激痛でのたうち回る騎士達と、無残に殺戮された咎無き死体がクオリアの足元に転がっていた。


「説明を要請する」

「なん……だ、お前、一体……これ、お前の、仕業……!?」

「質問は許可されていない」


 フォトンウェポンから荷電粒子ビームを一発、一人の耳に掠めさせた。

 僅かに焼けた耳と、地に空いた風穴。

 それだけで、自分達を一網打尽にした正体がこのクオリアであると騎士達は勘付く。


「あなた達はメール公国の騎士と認識する」

「……そ、そうだ」

「何故あなた達はアカシア王国のサーバー領に存在するのか。また、何故あなた達は明らかに非戦闘員であるこの人間達を排除したのか」

「……お、お前も、異端だな……!?」

「その発言は、解答としては不適切だ」

「サーバー領の人間は、晴天教会を騙った……! 悪魔の教えを聞いた異端達だぁ……! 最早救われるには、生命を賭した“改宗”以外には無い」

「……それ以上の説明は不要と認識する」


 クオリアは一つの“常識”をラーニングしている。

 “げに素晴らしき晴天教会”の信者は、異端や異教徒を殺しても良いと認識するらしい。

 しかしラーニングはしても、納得はしていない。

それだけの理由で、何故簡単に生命活動を停止させようとなるのか、クオリアには全く推察が出来ない。


 “美味しい”が奪われてしまった、さっきまで生命だったものと赤い川を一瞥して、メール公国の騎士達と再度向き合う。


「異端共を抹殺する為に……そして、であるアカシア王国の王都を奪う為に……メール公国からはるばる来たのだ」

「あなた達の発言は矛盾している。王都を占領するには、この人数では不可能だ。しかし付近に、多くの人間が待機もしくは進行している兆候は確認できない」

「俺達は我慢できなくて先に来ちまっただけだ……悪魔を狩る為のツアーは……いつだってやってるからな……」

「そりゃ軍と一緒に来たら、俺達の分け前が減っちまうからな……うっ!?」


 フォトンウェポンの銃口が、また火を噴いた。

 掠めた荷電粒子ビームに、俄に見えた騎士の緩みが顔面からすっかり消える。怯え切った全員の瞳が、フォトンウェポンを突きつけるクオリアに向いていた。

 クオリアとしても、今の威嚇射撃は予期しなかった事である。

 指が、勝手に動いた。


「……エラー。行動パターンに若干の異常あり。修正する」


 上を向くと、木々の間から青空が見えた。

今自分の帰りを待っている三人の少女を思い出す。勝手にどこかへ行ってしまった“お姉さん”を思い出す。今の自分は、誤り始めていると思い直す。

 深呼吸。空気の循環を体に感じ、ノイズから気を逸らして再び騎士達を視界に捉えた。

 

「メール公国の騎士は、他にいるか」

「……い、いる、この異端共の子供と、を追ってどっか行っちまったよ」

「人数の説明を要請する」

「さ、3人」


 付近に、真新しい足跡が僅かに散見された。

 子供のものと思わしき小さな足跡。それを追いかけたと思われる甲冑の足跡。

 クオリアがすべきことは早急にこれを追いかける事だ。だがクオリアとしては、もう一つ聞きたいことがあった。

 川に赤い汁を垂らしていく死体。


「何故この人間達に、人工魔石が装着されているのか」


 死後、抉られた損傷部分に何個も魔石が埋め込まれている。

 古代魔石の様な荒唐無稽な魔力は感じられない。魔術人形が装着している、人工的に創られた綺麗な魔力を感じる。


 しかし魔術人形よりも、更に近い存在をクオリアは想像していた。

色んな魔物を継接ぎさせて作った点は除けば、全身に魔石を埋め込まれているこの死体は――かつてディードスが飼っていた、合成魔獣キメラに近いと言える。

 

「異端共の、“改宗”さ……」

「説明を要請する。あなた達の定義する“改宗”とは何か」

「それはな……あっ」


 クオリアも、騎士の表情と視線の変化を見て気付く。



「へへ、やったぞ、一人悪魔救ってやったぞ! “改宗”、俺達にも出来たんだ!!」



 騎士達の歓声を受けながら、クオリアの後ろで一つ影が出来る。

 クオリアの予測世界に一つの綻びが生じた。


「最適解、変更」


 騎士達が殺した死体。

 そのうちの一つが、

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