第195話 人工知能、他国の侵略者を襲撃する

 王都よりも不安定な足場を駆けあがっていくと、木と木の間に何かが見えた。

 銀色の甲冑を纏った騎士が数人。王都では見た事の無い装飾だ。

 血で穢れた小川も、彼らの下まで続いている。


「……脅威を認識」


 コネクトデバイスを起動し、まだこちらに気付いていない騎士に注意しつつ、アイナ達に連絡を入れる。


『えっ!? 何があったの!?』

「所属不明の騎士を認識。少なくともアカシア王国の騎士団には該当しないと思われる」

『……外国の騎士かもしれない。第一候補はここから一番近い“メール公国”だけど』

「また脅威の足元に、

『……っ!』

「生命活動が停止している人間は騎士では無い。通常の人間と判断する」


 応対していたスピリトだけでなく、アイナが唸る声も聞こえた。


 全身をくまなく串刺しにされているか、撫で斬りにされているか、あるいは首を斬り落とされている。

 当然断面や裂傷部分から滴った夥しいまでの血液は、揺蕩っていた小川を紅に染めつつあった。


自分クオリアはこれより脅威の無力化を実行する。あなた達のいる箇所にも、同じような脅威が到達する可能性がある。警戒を要請する」

『分かったわ』

『クオリア様、気を付けて……』


 アイナの心配を最後に会話は終了した。

 騎士達の視野を把握し、確実に見つからない場所を算出。一旦その茂みに隠れ、彼らの情報を引き出す為に、聴覚神経に集中する。

 騎士達の笑い声が聞こえた。


「……駄目だね。こいつら一人足りとて“改宗”しなかった」

「やっぱ改宗なんて司教様に任せて、俺達は異教徒も異端も等しく殺すしかねえな」

「そうだそうだ。このまま悪魔どもを殺し続ければ、俺達はユビキタス様の所にいけるだ」


 クオリアは状況分析を完了した。

 間違いなく、“げに素晴らしき晴天教会”の配下だ。王都で対峙した、一切悪意は無い破壊者達と同分類だ。

 別の神を信じる存在を異教徒と蔑み、同じ神を崇めながらも道を違えた存在を異端と罵り、作物を収穫するかのように無思考で殺戮する連中だ。


「しかしこの異端共の他にも、子供と若い娘がいたよな」

「別の仲間が追いかけちまったよ」

「あっちに俺も行きゃ良かった。そうすりゃ殺す前にあの娘を抱けたのに」

「馬鹿言え。悪魔どもを殺してりゃ、死後はユビキタス様と同じ所行けるだ」

「でも異端ならやりたい放題やっても問題ないだろう。遠征中だからこそ出来る事だ。メール公国に帰る前に、思い出作りしようぜ」

「はっはっはっは……おい、頭に獣の耳が付いている奴がいたら奴隷にしようぜ!」

「そりゃいい。この遠征で聖地を奪い返せば、奴隷制も元に戻るだろ。あの呪われた血がこの世に贖う術は、死か服従しか無いというのに」


 演算回路を軋ませるノイズが、クオリアから表情を奪う。


「……エラー」


 それ以上のラーニングを、クオリアは中止した。

 彼らが善意で“美味しい顔笑顔”を奪う連中である事さえわかれば、話をする必要さえ無い脅威だと認識出来れば、により徹せる。

 機械の様に、無神経に傷つけられる。


「最適解、算出」

『Type GUN』


 クオリアは脅威たる騎士達に姿を見せることなく、そもそもフォトンウェポンの銃口を向ける事も、照準を合わせることなくトリガーを連続で引く。

 煌めく荷電粒子ビームは一瞬彼方へ飛び出したかと思えば、全て騎士達へ突き進む。


「へっ?」


 気づいた時には、終わっていた。

 数条の閃光が、騎士達の四肢を貫通して彼方へ消える。

 僅かに遅れて、悲鳴と驚愕がハウリングした。


「うわあああああああああああああああああああ!?」

「いぎゃああああああっ!?」


 人工知能は、戦闘なんて非効率な事はしない。

 一方的な無力化を実行するだけだ。

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