第180話 1章エピローグ③:人工知能、とある老人と出会う①

「異端者共が!! 往来を自由に歩くんじゃねえ!!」


 王都のある個所で暴れていたのは、今日王都へ帰ってきた進攻騎士団だった。

 一部の騎士が、侵攻先で奪ったであろう装飾品をこれ見よがしに纏いながら、剣や槍を面白半分に振るう。胸の晴天教会のシンボルである太陽のペンダントが、“異端者”と騎士の違いでもあった。


 他宗教の神をモチーフにした絵をその住民ごと引っ張り出しながら、騎士達は転げる男に剣を翳す。


「大咀嚼ヴォイトが現れたのは、お前の様に在りもしない空想に祈る馬鹿が現れるからだ。この世に神は、かの大咀嚼ヴォイトを倒した、救世主にして現人神ユビキタス様のみ!」

「まあまあ、そういきり立たん事だ」


 容赦なく振り上げた騎士が思わず立ち止まってしまったのは、一人の老人が間に入ってきたからだった。止めに来た、というよりは、知らず知らずのうちに走る馬車の前に到達してしまったかのような素振りだった。

 金髪と白髪が入り混じり、額に線を常時走らせている顔にはサングラスが飾られていた。最も、装飾品としてのサングラスではなく盲目を示す濃いサングラスである事は、左手の棒を頼りに歩く様から明らかだ。


「あんだジジイ?」

「ジジイとは酷いねぇ。儂はまだ44だけど」

「しかも目が見えてないらしい。今がどんな状況か理解出来ていないようだ」

「ああ、まあ大体は分かる。君らは晴天教会直属の騎士団で、異端者が許せない。だから今剣を上段に振り上げている」


 という状況が分かっているにも関わらず、尻餅を付く男を庇う位置から老人は離れない。人を殺せる凶器の真下にいるとはとても思えない日常っぷりを示していた。


「しかし、慕う神が違うくらいで短気を起こすものじゃない。?」

「ジジイが……てめぇも異端者だ――」


 騎士が握る柄が軋んだ直後だった。



『Type GUN』

「あなた達は、誤っている」



 突如横切った荷電粒子ビーム

 それが、刃を根元から融解して引き千切った。


「何っ!?」


 溶け折れた刃が大地に突き刺さると同時、全員が認識する。

 右手にフォトンウェポンを構えた、クオリアという軽装の少年を。


「警告する。これ以上の攻撃的行為の停止を要請する。従わない場合、脅威と認識し、あなた達を無力化する」

「子供が……晴天教会に逆らう気か……?」


 既にディードスという男の一件で、晴天教会の免罪符を焼いている事は知らないようだ。しかしクオリアもその事を連想することは無く、ただの状況の分析に努める。


「何をしたかは分からんが、小僧、晴天教会の同志ではないな」

「否定。自分クオリアは――」

「貴様も見せしめにすれば不埒な神もどきに唆される馬鹿も少なくなるだろう!」


 クオリアの自己紹介を律儀に聞くことも無い。

 巨大に見合わず、俊敏な速度で間合いを詰める。更に剣が魔力で煌めく。剣術の一つ、魔力剣だ。


「この俺の“縮地”に匹敵する速度からの、魔力剣! あの聖剣聖にも引けを取らん! 喧嘩を売る大人を間違えたな子供ォ!」


 と、そう言いながら振り切った剣閃の先にクオリアはいなかった。

 僅か0.1mmだけ、軌道からズレた。


『Type SWORD』


 フォトンウェポンを刃引きされた模造剣に書き換えて、騎士の懐に酷く合理的に入り込んだ。

 クオリアの間合い。全て、予測通り。

 それを確認すると、クオリアは模造剣で半円を描いた。

 

 スカァン、と。

 結果、男の顎が綺麗に撃ち抜かれた。


「脅威の無力化を認識」


 周りの騎士も、転がっていた男も一瞬何があったか分からない様子で、崩れ落ちていく大柄な肉体を見つめていた。

 わなわなと、騎士が震えだす。

 

「た、隊長が……」

「……な、なんだコイツ、ここは逃げろ……!」


 何らかの騎士団の隊長であることをラーニングした。しかしそれと、騎士隊長を置いて逃げ去る部下たちの挙動が一致していない。

 しかしクオリアには、それよりも気になる矛盾があった。それを既に気絶した騎士隊長に向けて出力する。


「また、あなたの発言に虚偽が含まれる。あなたの移動速度は“縮地”に定義される閾値から非常に低い。そしてあなたはスピリトよりも戦闘能力が著しく低い」

「クハハ、助かったよ、ありがとうな」


 短く甲高い笑い声を上げる、盲目の老人。

 その老人から、クオリアは神妙な値を検出する。


 その値からは、という疑問符付きの結果が検出された。

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