第164話 人工知能、兵器回帰の承認を要請する
『あっちにいっぱい美味しいのがある……ここはさっきから食べれないから、いいや』
クオリアがテレポーテーションした事さえ無頓着に、ヴォイトは未だ焦点の定まらぬ瞳のまま、御馳走を求めて飛行を始めた。
「
「……流石に、暫くは飛べないか。準備も無く無理に力を使い過ぎた」
三人の魔術人形に寄り添われ、ようやく
それでも雨合羽に包まれた胸部に填る魔石の光に呼応して、剝き出しになっていた部分が閉じていく。
「……クオリアの緊急メンテナンスとやらが修復なら、アナタのは早送りの回復ね」
その声の相手を、三人の魔術人形が強く睨む。敵への、怨敵を意識するような視線だった。
視線の先で、駆けていくクリアランス達の行列から外れ、腕組をしながらカーネルは尋ねる。
「魔石は人に直接つけることは出来ない。にも関わらず、アナタは一体何者なのかしら。アナタはどこまで知ってるのかしら」
「前者への回答はこうだ。色々奇跡が起こっちまった。理由は良くわかってない。愛とか友情とかそういう何かじゃねえか?」
「あら、意外とロマン派なのね。そういうの好きよ」
「で、これも古代魔石だからな。古代に生きた人間達の心の欠片も、魔力となって蓄積している。だから伝わって、知っちまった。大咀爵ヴォイトの事も」
一旦古代魔石を宿しているという事は置いておき、優先度の高い内容を尋ねる。
「……ヴォイトは私達を無視して王都の方へ向かった。これの意図は何かも分かるのかしら」
「大咀爵“ヴォイト”の大好物は命だ。王都には数えきれないほどの
「傍から見れば、空腹でキレてブラックホールかましている様にしか見えないけど」
「あのブラックホールこそが、奴の食事方法だ」
青空を捻じ曲げるヴォイトという太陽を見上げながら、
「てめぇなら薄々勘づいてんだろ。大咀爵“ヴォイト”の本来のスキルは、喰らった生命の分、無限に強くなる事だ」
「ええ、人並みには存じているわ。そもそもスキルとは、滅びた文明のロストテクノロジーから復元した概念だったからね」
「……あれはヴォイトの完全なゴーストじゃねえ。飢餓的な感情の一部が具現化した残滓のようなものだ。そのスキルが残っているかは不明だな」
腰に手を当てながら、カーネルも上空を見上げる。
「冗談じゃないわ。腹ペコが理由でアタシ達のアカシア王国を滅ぼされてたまるもんですか」
「カーネル様」
プロキシと共に、数人の騎士も付いてくる。当然
「やるならやってやろうではないか」
一方でマリーゴールドがナイフを掲げて
しかしその戦闘を停止させたのは、騎士達を腕で塞ぐプロキシだった。
「……今は圧倒的に大咀爵ヴォイトの方が優先だ。クオリア君だけに任せる訳にはいかない。全ての人員をヴォイトに向けろ」
「了解しました」
渋々剣を納める部下と共に、プロキシもヴォイトを討伐しに疾駆を再開する。
カーネル自身も連れてきた馬に乗りつつ、憎悪の眼を向け続ける魔術人形達に声を掛けた。
「沢山機能拡張したようね。アタシの知らない領域ばかり」
「私達はお前を、そしてヴィルジンを認めない。何故なら私達の様な魔術人形は作られるべきではなかったからだ」
「誰かに使われることを前提とした命に、何の意味があったんや。どうして俺らはそうやって生まれなければいけなかったんや」
シックスとケイの怨嗟に、カーネルは後ろめたさも無くすっぱりと答える。
「意味ならあった筈よ。アナタ達は新時代の盾となり、そして剣となる道具としての意味があったわ。アナタ達は、残念ながら失敗作よ」
「……ふざけおって」
マリーゴールドがナイフを片手に突き進もうとする。しかし後ろから
「
「今は時じゃねえ。世界の安全が確保されてからだ……」
「覚えておきなさい。アナタ達がこれ以上何か悪さをするようなら、折角根付いた心とやらをアタシが直々に砕いてあげる。それがアナタ達魔術人形を製造した責任者であるアタシの取るケツ……それが嫌なら、いい子にしてる事ね」
「……おい、オカマ」
罵倒にも気にせず、ヴォイトへ馬を向けたカーネルに最後に吐き捨てる。
「俺は晴天教会を許さない。しかし同じくらいに、お前達ヴィルジン派も許せねえんだよ。その理由は、こいつらが握ってる」
「倫理じゃ何も成し遂げられないの」
「そうかよ。精々くたばれ」
「じゃ、先行ってるわね」
馬に鞭を打つと、巧みな馬術で森の奥へと消えていく。
「む、無理じゃ!
「行くんだよ。王都の人間が無作為に死ぬ事は、ラヴの願いに反する」
マリーゴールドに支えられながらも、牛歩だろうと突き進むのだった。
「じゃなきゃ、あの日ラヴに命を貰った意味が無いじゃないか」
こうして聖テスタロッテンマリア迷宮跡地の近くからは、一人を残して誰もいなくなるのだった。
茫然と力なく天空の歪んだ景色を見上げていた、エス以外は。
「クオリア、クオリア……」
クオリアを探せど、近くにも空にもどこにもいない。
■ ■
重力の異様な歪みによって、王都上層でも嵐が巻き起こっていた。
大空に投影された真っ白なブラックホール。それを庭で見上げているロベリアの前に、テレポーテーションの瞬きが降り注ぐ。
「……クオリア君」
暴風によってはためく真っ白な髪の下、クオリアの顔は相変わらず人形の様だった。
「ロベリア。シャットダウンへの1%以上の
言われなくとも、クオリアがこのタイミングで現れた時点で覚悟の自覚は始まっていた。決まらない覚悟を、崩して欲しくもあった。
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