第150話 人工知能、魔術人形達の覚醒を見る③
トロイの騎士達も茫然自失としてしまう程の、鮮やかで、しかも明らかに計画されていた撤退ぶりだった。
「
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“明らかに撤退時の為に温存していた魔術人形達が”一斉にスキルを解放し、強力な現象をトロイに放つ。着弾し、途方もない爆風が巻き上がる。
「ちっ……これじゃ魔術人形共を追えねえ……!」
トロイの騎士達はその一歩が踏み出せない。
地水火風を始めとした、スキルの砂嵐が立ち塞がっている。師団長達が“
疾風迅雷の逃走劇を目の当たりにしていたエスが、一人の
「……救助活動を」
ふと、無意識にエスが一歩を踏み出した直後だった。
超速度で駆け抜けたマリーゴールドが、稲妻を帯びたままその魔術人形を抱える。
「……私の体に……重大な損傷を確認……退避行動は不可。生存可能性から……私を救助する事は、“楽園”創造の為の更なる要員減少に……」
「まだ私達は始まったばかりなのに、“心”も学習できていない状態で、こんな所で終わるでない!」
「……また……
「それも予定通りだった筈じゃ。私とケイとシックスで何とか潜り込んで助けに行く……お主、“心配”が目覚めておる様じゃ。まだ慣れておらぬ様じゃが」
と、そこでマリーゴールドは視線に気づく。
マリーゴールドだけではなく、ケイも、そしてシックスも例外ではない。
その他多くの魔術人形も、かつて同じ主人の下で心を奪われていた個体にして、唯一自分達とは違う存在を見つけた。
エスだった。
「……エス、お主。守衛騎士団“ハローワールド”に入ったそうじゃな」
「肯定します。お前達は
「認識通りじゃ。元主人の束縛からは解放されておる。お主が私達の中で最初にそうした様にのう……お主と違う点は、
マリーゴールドの隣に、ケイも並ぶ。
「エス、お前も
「例え楽園がどのようなものであったとしても、私はお前達と同行する事はありません。私は私の役割の定義を完了するまで、守衛騎士団“ハローワールド”の役割を果たします」
マリーゴールドとケイが、更にエスを説得しようとしたのか、エスに近づこうとした。しかしその脚はピタッと止まった。
二人に背を向けて立ち塞がったシックスに、両手で静止されていたからだ。
「説得は無駄と判断する。エスの思考方向性は既に確立されている。これを覆すことは非常に難しい。また、元主人とのインシデントから、クオリアとの関係性も深いと判断する」
「はい。お前の言う通りです」
「エスに忠告をする。もしエスが
クオリアもエスに追いついた上で
「状況分析」
正対する三人の魔術人形からも、隣のエスからも、二つの感情が推測出来た。
旧友に会った時の仄かな“美味しい”感情。
しかしその旧友相手に戦闘行為を選びかねない“不味い”感情。
名の通り人形だったその様子は、特にこの三人からは検出されない。他の逃走中の魔術人形にしても、この三人ほどではないにせよ明らかに自我に目覚めつつある。
フォトンウェポンは向けない。今の時点では脅威と判断していない。
ただし、クオリアも完全な味方とは思っていない。
「説明を要請する。あなた達及び
「それを答える事は、
「だがこれだけは言えるで。俺達も王都がブラックホールに滅ぼされる事が理想的だとか、間違っても思っとらん」
「だからクオリア。私は、あなたなら合理的に判断できると信じている。古代魔石“ブラックホール”は
三人の魔術人形から回答を貰うと、クオリアは即座に言葉を重ねる。
「
「……」
ハローワールド。
沈黙が、二つの間に広がった。
これまでの敵対関係と違い、互いに憎み合っている訳ではない。
それでも共有できない何かが静寂の妖精となって、妙な空気へと入れ替わる。
静寂を割いたのは――トロイだった。
「隙ありだ。おい」
地面を削る無色透明の斥力。
あらゆるものを押し潰す重力波が、トロイ第一師団長キーロガーの魔導器から穿たれたのだった。
『Execution Teleportation』
「回避を実行する」
エスの肩を掴みながら、射線上からクオリアが消え去る。
『ライトニング』
「
スキルを即座に発動させて肉体を限界にまで活性化させたマリーゴールドが、シックスとケイも合わせた三人を抱えながら縮地並みの速度で退避する。
「ちっ……ちょこまかと」
キーロガーの舌打ちを耳にしながらも、クオリアは辺りを見渡す。
一方で、剣と剣の鍔迫り合いが連続していた。クリアランスを筆頭としたプロキシ達と、トロイの戦闘がなし崩し的に開始されたのだった。
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