第149話 人工知能、魔術人形達の覚醒を見る②
トロイ。
広々とした迷宮とはいえ、最下層に繋がる一本道を塞ぐようにして発生しているその小競り合いを、クオリアとエスも含めた騎士達は隠れながら見ていた。
炎。溶岩。超圧力の深海水。雷。鎌鼬。絶対零度の空気。
剣による衝撃波。超巨大岩石の投擲。
魔術やスキル、あらゆる攻撃がキャッチボールのように飛び交い、石畳や壁が次々に弾けていく。轟音、地響き、それらがひっきりなしにクオリア達も伝道していたのだ。
クオリアは、その渦中にいる
「魔術人形を認識。ディードスが支配していた個体と一致」
そもそも、ラーニング済みだった。
全員のとは言わないが、発生するスキルにも見覚えがある。威力やその特性が変化しているとはいえ、根本的なスキルを推察する事は造作もない。
クオリアのアウトプットに、エスも同意する。
「はい、あれらは私の認識に登録されています。元主人に従っていた魔術人形によるスキルが検出されています。しかし、元主人に従っていた時期と、挙動が異なっていると判断します」
「肯定。あなたの意見に賛同する。魔術人形として登録されていた挙動、戦闘パターンと大きく相違している」
一方でカーネルとプロキシもまた、状況の見極めに徹していた。
その最中、閃光の疾駆が、全員の注目を集めた。
稲妻に巻かれた小さな少女が、疾風迅雷の速度で騎士の懐に潜り込んでいた。
それを見て、エスがかつての仲間の名前を呟く。
「個体名“マリーゴールド”を認識――」
そのマリーゴールドに、騎士達が剣を持って群がる。
『魔術人形相手の
騎士達は剣を振るう間もなく、両手にあったナイフに喉の隙間から貫かれる。
一気に五人。
命を失い、崩れ落ちる。
『は、速過ぎる……!?』
『魔術人形に……疑似肉体に、こんな接近戦の能力が……!?』
トロイの騎士達は後退る。
こびり付いた血を敢えて振りまき、マリーゴールドは怯える騎士達を睨みつけた。
『死にたくないのなら、投降する事じゃ。無駄な殺生は
何故か目立ちたがりの様にピースするマリーゴールドの周りを、縦横無尽自由自在に躍動する水流が駆け巡る。
ただの水の魔術。クオリアさえ、一瞬そう空目した。
「個体名“ケイ”を認識」
水流そのものが、魔術人形であったと気付いたのはエスの発言があった直後だった。
着地と同時、圧力を極限まで高めた余波で辺りの騎士を弾き飛ばしながら、水が一人の魔術人形を象った。
青い色オールバックの少年として彩られる。
「ロベリア邸にて獣人を殺害しようとした魔術人形と一致」
“オーシャン”のスキルを使用し、“ウォーターカッター”で獣人を両断しようとしていた、クオリアが最初に戦った魔術人形。
クオリアの記録と、一致した。
しかしケイが扱っているスキルは、たった二日前から異常なまでに進化している。
『マリーゴールド、お前は甘いで。トロイは生命活動を全員停止させるべきや。こいつらは“楽園”に不必要な害虫やからな』
『魔術人形が世迷い言を!』
溜まらず近くの騎士が、得物を振るう。
刃が、穂先が、あらゆる方向からケイを貫く。
しかし、手応えがない。水面と遊んでいるかのような、反動の無さが返ってくるのみで、風穴が一切彼の体に空かないからだ。
『物理攻撃が……全て奴の体を突き抜ける……』
今のケイは、“液体”に体が置換されている。
悟った時にはもう遅い。
『あっ』
ケイの両手から放たれた“ウォーターカッター”に、鎧ごと両断された。
「……あの魔術人形達、ちょっとクレイジーな口調になってない? あんな機能あったかしら」
「エス。説明を要請する。あなたのパターンと、
「それは私も同意します。あの発音パターンは特殊です。後天的に、かつ自発的に学習したものと思われます」
「やーねぇ。口調なんて普通が一番よ普通が。方言だらけになったら報告受ける側大変なんだからまったくもう」
と、クオリアとエスに意見を仰ぎながらも(その横で三人の会話にブーメラン的違和感を覚えるプロキシをスルーしながらも)魔術人形が不得手とする筈の接近戦を、未知のスキルの使い方によって克服していた様を見て顎に手をやる。
(成程。この状況は宜しくないわね。“自発的に口調さえ変えてしまうくらいに”魔術人形がこうも簡単に自我を持って、私達の手綱から外れて、なんだかやりたい放題やっている様は)
カーネルが魔術人形が自我を持つことに対して、このように危惧した。
第二の蒼天党になる、と。
まだ
だが、その利点にも同時に目を向けていた。
(……けど、彼らは自発的に
一方でクオリアは、魔術人形達のスキルを再ラーニングしつつ、一つの異常に勘付いた。
「重要度の高い問題点を認識。
隣でプロキシも頷く。
「先に行ったのかもしれない。魔術人形達の目論見がその為の陽動だったら、話が分かる。ウッドホースがいるのも、最下層の可能性が高いだろう」
「もう一つの異常を確認」
「まだあるのか?」
クオリアが注目したのは、トロイの方だった。
正確には、トロイの師団長四人であった。
「異常な魔力パターンが検出される魔導器を着用した四人については、損傷が一切確認されない」
「トロイの師団長共か……」
突如、戦場を強力な重力波が駆け巡る。
敵味方問わず、全てが――炎が溶岩が超圧力の深海水が雷が鎌鼬が絶対零度の空気 が剣による衝撃波が超巨大岩石の投擲何もかもが、魔術人形側へ跳ね返る。
魔術人形達もスキルを駆使したものの、凄まじい密度の反射攻撃に防御や回避で手一杯になる。
「所詮人形がイキった所で、人工魔石の塊。古代魔石の技術に勝てる訳ねーよな、おい」
「はぁ……骨があると思っていたのだがな」
クオリアは古代魔石“ブラックホール”の力を、師団長達が纏っていた魔導器から算出した。対象にかかっている重力を操る機能、そして斥力を兼ねた重力波によって敵を吹き飛ばす機能。
前者が特に恐ろしい。接近攻撃も、遠距離攻撃も、何もかもが認識されている限り通らないという事なのだから。
その脅威度を推し量ったうえで、クオリアは最適解の算出をし始める。
「状況分析。先程の魔導器の反応から、一度に一つのみスキルを発動できると推定。最適解算出、完――」
クオリアの皮膚感覚に魔力反応があった。
エスも、カーネルも、プロキシも共通の現象に脅威を感じた。
マグマが、クオリア達に襲い掛かってきた。
「個体名“シックス”を認識」
夕陽色の髪を靡かせ、クオリア達に手を伸ばした少女。
シックスと呼ばれた個体から灼熱の溶岩が散らばったのは言うまでもない。
クオリア達に届かなかったにせよ、狙いはそれではない。
「ちっ……クリアランスの連中まで来てやがったか、おい」
――トロイが、クオリア達に気付く事だった。
それを認識すると、シックスは
『
押し付けられた。
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