第148話 人工知能、魔術人形達の覚醒を見る①
「……まだかよウッドホース総隊長は、おい」
「はぁ……王都を滅ぼす程の爆弾があるって聞くと、気が気でないな」
トロイは最下層へ繋がる唯一の道を、岩のように塞いでいた。
全騎士が集まっている訳ではない。自分達が賊軍となりアカシア王国中から追われる立場となってしまった為に降伏したり、あるいは逃げ出したりしている。それでも今、ウッドホースと行動を共にしているトロイの騎士は半数にも及ばない。
だが今いる人数でさえ、400人を優に超している。
脅威としては十分すぎる数の力を持っている。
しかしトロイの騎士達も、ウッドホースと心中目的で聖テスタロッテンマリア迷宮にいる訳ではない――では何故、最下層に繋がる道を封鎖しているのか?
それは、最下層で古代魔石“ブラックホール”にウッドホースが魔力干渉をしている為だ。別名で、ハローワールドの誰かはハッキングと呼称した。
ウッドホースは今、古代魔石“ブラックホール”を時限爆弾へと変えている。
トロイ達が安全圏外へ逃げるために必要な時間。
ブラックホールの展開範囲。
その凄まじき威力。
それらすべてを、完璧に調律していたのだった。
「ていうか、ウッドホースさんが失敗して、俺達が巻き込まれるシナリオはないのかよ、おい」
「ご生憎、ウッドホースさんが来ている
そう会話を繰り広げる師団長クラス達の面々も、古代魔石“ブラックホール”の力が練りこまれた魔導器“
プロトタイプであり、ウッドホースよりも古代魔石“ブラックホール”の力は薄い。それでもたった一人で、騎士団一つを返り討ちに出来た。
実際、クリアランスが派遣した先遣隊も、たった二人の師団長によって返り討ちに合っていたのだ。
第一師団長キーロガーと第二師団長クリッカー。
この二人は子爵の貴族であり、先祖代々はトロイの師団長や総団長を務めあげて――その利益をむさぼっていた。
「はぁ……俺らの親も、かつてはトロイの師団長として思うがままにしてきた。それが俺たちの世代になって、あのヴィルジンやカーネルにも睨まれ……こんな筈では無かった。どちらにせよ、このままでは……ふぅ……破滅だ」
一日に千回はやっている溜息後クリッカーの言葉に、キーロガーも同意する。
「やってらんねえよな、おい。だからこそ、王国を俺達のやりたい放題に出来た、あるべき姿に戻す。ブラックホールで、全部掃除してな」
「――意外だったな。ウッドホースがそこまで調整できるくらいに、古代魔石“ブラックホール”に精通していたとは」
一瞬、空間が硬直した。全員の息が止まった。
連続する足音。揃っている様な、揃っていないような不協和音を感じた。
全員、全身を雨合羽で覆っている。
その先頭に立つ狐面の風貌を見て、キーロガーが舌打ちをする。
「……
「……要は過去の時代に縋って、甘い蜜を吸いたいだけの、衰退した膿に過ぎない。周りの人間は舞台装置か何かとしか思っていない」
「てめえらは間違っている。もう取り返しのつかない程に」
「はぁ……言ってくれますね。自分を正義の使者と信じ込みたい下級国民が、一体ここに何の用かな」
癖の溜息を放つクリッカーに対して、更に深い溜息をしてみせる
「ここに来る理由なんか一つしかねえだろ。古代魔石“ブラックホール”を渡してもらおう。我欲でハイエナに成り下がったてめえらに、大咀爵ヴォイトの真の力は使いこなせない」
全員が眉を顰める。
キーロガーが立ち上がったのを機に、トロイの騎士達が剣を握る。
「舐めた口を利くじゃねえか貧民が、おい」
「はぁ……どうやら私達の事をこそこそ嗅ぎまわり、古代魔石を蒼天党に渡した情報を見事に漏らしてくれたそうだねぇ……君はまるでネズミだ。いい加減目障りだ」
師団長に合わせて罵倒を繰り返すトロイの騎士達の前に、
「――
らしくない抑揚の付き方と神妙な口調で、フードを剥がす。クリーム色の癖が強い巻き毛が、加えてトロイに強い第一印象を与える。
個体名――“マリーゴールド”。
「お前のやる事は、古代魔石“ブラックホール”への干渉であり、トロイの無力化は一番の目的ではない筈や」
その隣で、空色のオールバックを髪型とする少年も並ぶ。
魔術人形らしからぬ、方言が混じった言葉をしていた。
個体名――“ケイ”。
「私達が陽動する。手筈通り、
更に、燃える様に茜の彩を持ったロングヘアの少女が二人の間に立つ。前に出てきた二人の中で、ある意味魔術人形らしい凛とした顔立ちでトロイと正対する。顔立ちは他の魔術人形よりも大人びていて、身長も高い。
個体名――“シックス”。
――この三人を始めとして、
「……任せた。適度なところで引き上げろ。生存が最優先だ」
狐面の下で僅かに心配そうな視線を見せた直後だった。
誰の目にも映らない速度で、一気に最下層まで
「なっ……!?」
騎士達が気づいた時には既に頭上を通過され、背後にあった最下層までの道を下っていく
「おい!」
『プロトブラックホール』
第一師団長としてのプライドが、キーロガーの行動を即座に促した。
全身を包む漆黒の魔導器“
追跡の疾駆。
そして、蔑ろにされた事による怒号。
全てを怒りのままに同時に熟す。
「させるか――
『マグマ』
「
割り込む様にキーロガーの背後から、溶岩が圧倒してきた。
舌打ちをしながら伸ばしていた重力波の掌を、180度反対に向ける。
視線に、胸の魔石を瞬かせるシックスという少女が映る。
(溶岩のスキル……おい……!)
あらゆるものを溶かす灼熱の大波も、
重力波による反射。
「学習済みじゃよ」
だがそれをあらかじめ見切っていたかのように、魔術人形達は反射する溶岩の斜線上からとっくに退避、結局誰一人として溶岩は何も飲み込まなかった。
「はぁ……どうやら奴らの狙いは、私達が
溜息を深く吐くクリッカーの言う通り、一方で、最下層に繋がる一本道は重力波で跳ね返りきらなかった溶岩で灼熱色に塗装されていた。とてもこの道を追って
道を塞ぐ側であったトロイ。
道を通過する側であった
その立ち位置が逆転した瞬間である。
「じゃあ、
「
「私は、
魔術人形らしからぬ個性を発揮しながらも、連携時は淡々としていた。
三十人もの魔術人形達が配置に着く。
その様子が、トロイの騎士達のプライドを鑢で削っていく。
「たかだか人形如きが……舐めた事してくれんじゃねえか。おい」
「噂で聞いた話、どうやら“心”とやらが芽生えている様で……はぁ、不良品が。そんなに感情を知りたいのであれば教えてあげましょう。屈辱と、後悔と、絶望を」
「スクラップにしろ、おい。一人残らず!」
即座に、二つの集団の衝突音が迷宮内に響き渡った。
――クオリア達が到着したのは、それから5分後の事であった。
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