第132話 人工知能、ある獣人の最後の役割を見る①

 王都の郊外。

 比較的その場所は、郊外の中でも人口密度が高く、しかし蒼天党からの襲撃から免れていた為に、一時的に住居を失った人々が避難生活を送っている場所でもあった。

 つまり、獣人に対しての憎しみも強い区域であった。


 今日も公然の通りで、獣人が足蹴りにされていた。


「お前ら蒼天党の屑共のせいで、俺達は家を失った!」

「俺達の傷をお前らも味わえ!」

「うぅ……俺達は……何も関係ない」


 足蹴りにされていたのは、獣人の兄妹だった。妹はまだ幼く、10歳に成りたての所だった。兄もまだ少年の域を脱していない。

 にも関わらず、大の大人が寄ってたかって暴行を働き続ける。周りの人間はおろか、耳を隠していた獣人さえも恐怖に怯えて近づくことが出来ていなかった



 



「うっ!?」


 強烈な破壊音と同時、暴力を働いていた人間が吹き飛ばされる。

 リーベが放った一撃で発生したクレーターが、その衝撃を物語っていた。


「よう。蒼天党のリーベがやってきたぞ。ほら、攻撃してみろよ」

「……そ、蒼天党の頭……なんでこんな所に」

「人間を憎む蒼天党が現れた。何を意味するかくらい、人間様ならよーく分かんだろ?」


 途方もない破壊を放った右手をぶんぶん振るいながら言い放った言葉に、人間達は退散した。

 しかし逃げ惑う人間達の間に入ると、人間を軽々と吹き飛ばす暴力を逆にお見舞いする。

 壮大に人間が吹っ飛んだが、

 しかしそれは即ち、リーベの恐怖を認識する人間が多いという事。

 夜中で少ないとはいえ、パニックになるには十分すぎた。


「うわああああああ!」

「ふ、ははははは……」


 夜闇と砂煙で、リーベは物語の魔王の様に君臨していた。


「逃がさねえぞ人間!! 一匹残らず、俺が今日まで虐げられてきた積年の恨み!! 晴らさせてもらう」

 

 ある人間は背中を見せて逃げ回り、ある人間は尻餅を付いてリーベを見上げていた。リーベはそんな様子を見ながら鼻で笑い、悉く蒼天党の頭として悪であり続ける。


「しかし……人間もおろかだな。あんな守衛騎士団に頼っていたとは……お前達を裏切っていたとも知らず」

「な、なに……?」

「守衛騎士団“トロイ”。俺達は古代魔石“ブラックホール”を奴らから流してもらっていた!!」

「そんな! あのトロイが……あのウッドホース様が!?」


 守衛騎士団“トロイ”はかつての悪名を覆すように、これまで臣民に対して数多くの英雄的行為を見せつけてきた存在だ。英雄の一団としてステップアップさせたウッドホースには、最早神格化している人々がいるくらいに影響力が浸透している。


「と、突然何を言い出すかと思えば……獣人が」


 当然、逆に挑発された気分になって怒りを取り戻す人間もいた。

 一方で、突如唇をぎゅっと結び始めた男もいた。


「いや、だがトロイが蒼天党と繋がっていた可能性が高いって……さっき別の騎士団から聞いたぞ……?」

「ば、馬鹿な! あくまで噂だ! 惑わされるな」


 人間同士で言い合いを始める一方で、こそこそと隠れていた獣人にもリーベは目を向ける。


「馬鹿な奴らだったよ、蒼天党に加わって散った獣人共は。どいつもこいつも、俺の真赤の嘘ステルスに屈して、死にたくなくて俺に従ってた筈なんだがなぁ。結局騎士達に特攻して、むざむざ死んでいった訳だ。どっちにしても死んでた訳だ」

「何……」

「獣人共は、最後まで使えねえ奴らだった」

「じゃあ、蒼天党ってのは……」

「蒼天党とは、俺が暴力で作り出した集団だ。俺が人間を従える頂上に立つためのなぁ!」


 雄叫びに乗った真実・・に気圧される空間。

 そしてリーベが一歩近づく。その度、周りの人間や獣人が後退りしていく。


「じゃあ獣人は……こいつに命を握られて、仕方なくという事だったのか!?」

「いや、それでも俺達の家を奪ったのは獣人だ……惑わされるな」

「しかしそもそも、トロイのウッドホース様が関与している……一体何が真実なんだ……」

「分からないが……今俺達の目の前にいるリーベという存在は、人類の敵だ!」

「そうだ。蒼天党など、所詮有象無象の類でしかない。。死にたくなければ戦って見せろ」


 再び強大な破壊を振りまく。

 地面が揺れ、夥しい破壊の跡が蓄積される。

 、人間達が恐怖を覚えて逃げ惑うには十分すぎた。


 更に一方で、獣人達も遠巻きにリーベを睨みつけていた。


「俺達は……お前の勝手な行動のせいで」

「ああ、欝憤が収まらねえ。こそこそ隠れているお前達から殺ってやろうか」


 獣人達が歯軋りしながらも、逃げていく様を見る。

 皆、逃げていく。リーベ一人を悪者にして、逃げていく。

 後ろを見る。先程助けた兄妹だ。しかしリーベが戦闘の構えを見せると、怪訝そうな顔をしながらも逃げていく。


「……これでいい。準備は整った」

『ガイア』

魔石回帰リバース


 既に来ていたエスの足元から放たれた地面の槍が、リーベを貫く。



「――来い、決着の時だ。守衛騎士団“ハローワールド”」


 復活したリーベの体が、もう風前の灯火であることは誰の目にも明らかだ。

 エスの眼からは、豪語するリーベが透き通って、奥のクオリアが見えていた。

 クオリアは、まだフォトンウェポンを出せていなかった。




         ■           ■



「……何かがおかしいわね」


 守衛騎士団“クリアランス”も丁度その頃、全体が一望できる場所にまで到達していた。クリアランスのリーダーである団長“プロキシ”が指示を出している一方で、カーネルは腕組をして面を顰めていた。


「プロキシ。クリアランスを一旦待機させて」

「ですが、あれは明らかに破壊行為です。見過ごせませんよ」

「ええ、そうね。ただ、どうも気になるのよ。リーベも、守衛騎士団“ハローワールド”も」

「……」

「アナタの言う事も最もだわ。。十分だけ待ちなさい。それまでは人間の避難を最優先。いいわね」


 不服そうに溜息をつくと、その通りにプロキシはクリアランスに指示を出す。

 リーベは相変わらず、三人の動向を見下ろしていた。


 人間。

 魔術人形。

 そして、獣人。


 役者の揃った舞台に、ぽつりとカーネルは呟く。



「クオリア。エス。そしてリーベ。アナタ達はどんな解をここで出す気なの」


 


         ■         ■


「第零師団は倒れた……芋づる式的にトロイもやべえ……しかしようやく運が向いてきた」


 そして、バックドアがその光景を発見する。

 古代魔石“ブラックホール”を持ちながら。


「今度こそ……こいつを届けてやる。やっぱ王都を滅ぼすのは蒼天党のリーダーってのが一番最高のストーリーだよな」

 


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