第124話 人工知能、音速の存在相手に百発百中を的中させる②

 テレポーテーションを実行する前、地上で見上げた空は、世界を幽閉するように漆黒一色で済んでいた。 


 今、高度10,000mで自分を優しく包む空は、まだ薄暗くとも青く澄んでいた。


 地平線に沈んだ筈の太陽が、クオリアの視覚情報を妨げる。

 眩しい。

 アイナに教えてもらった、人間だからこそ感じ取れる刺激だ。


「予測修正あり」


 高度が10,000m違うだけで、空の色が変わるという事実をラーニングしながらも、クオリアは共にテレポーテーションによって転送されたロッキーの対処を優先する。

 目の前の脅威を抹殺するタスクの方が、最優先だ。


「おぼぼぼぼぼぼばばばばばばば!?」


 自由落下の速度を強める重力。

 真正面からロッキーの体を掠める空気抵抗。


 地上で迅速に動く歩法は知っていても、高度10,000mからの落下方法など知らないロッキーは、頭を下にして錐揉み回転をしながら落下速度を上げていく。

 縮地と違って、コントロール不可能の垂直落下。

 更には酸素濃度の低い空気を吸っているせいで、両手両足のあがき方も弱弱しくなっていく。


 一方で、クオリアは最適解通りに体勢を操り、目まぐるしく落ちていく世界で体勢を制御する。低酸素の呼吸も最小限に抑え、意識への干渉も防ぐ。


 再度、関わる世界全てをラーニングする。

 空気抵抗。

 上空を蹂躙する強烈な気流。

 それらにされるがままのロッキーの体。

 背後に見える、沈みかけた陽光。


 地表への激突までの猶予は、2分37秒。

 十分すぎる、余裕である。



 ダイヤモンドの鎧を貫通する108発の荷電粒子ビームの軌道計算を完了した。

 フォトンウェポンを携えた腕を伸ばす。

 重力や抵抗に煽られようとも、一瞬で誤差を修正する。



実行開始ファイア



 閃光が怒涛の勢いで、連続で散った。

 1発目の荷電粒子ビームがロッキーの背中に突き刺さる。


「ぐおあ……」


 2発目、3発目、4発目――次々にロッキーの背中一点に着弾する。

 20発目、30発目――1ミリも誤差が生じる気配はない。


 その一点にかけて、ダイヤモンドの黒衣が掘削されていく。

 荷電粒子ビームの融解能力が、間違いなく最硬のスキルを溶かし始めていた。


「ぐう、おのれ……」


 流石にロッキーもまずいと感じたのか、体を捻ってかわそうとする。

 その程度、クオリアの軌道計算の前には誤差にもならない。

 ぐにゃりと荷電粒子ビームが歪み、自ら軌道を修正してワンポイントに集約する。


 クオリアにとって、50発目も60発目も変わらず流れ作業だ。


「予測修正、無し」

 

 淡々と。たんたん、と。

 クオリアはその荷電粒子ビームを放ち続けた。


 90発目、100発目、そして107発目がロッキーの背中に着弾した。


 太陽が、地平線に隠れて見えなくなったと同時――クオリアは108回目のトリガーを引いた。魔石“ダイヤモンド”が限界を迎え、輝きを失ったのはその直後だった。

 一条の光が、ダイヤモンドを貫いた。

 

「ぎゃあああああああああああああああああ」

『Execution Teleportation』


 風穴の空いたロッキーと共に、自由落下の世界からテレポーテーションする。

 腹部に開いた風穴は内臓を最大限避けており、ロッキーは死ぬことは無い。


 トロイのウッドホースに繋がる情報源として、クオリアは連れ帰った。

 


 



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