第123話 人工知能、音速の存在相手に百発百中を的中させる①

「ふん。しくじったか、ケレンゲルめ。聖剣聖と持て囃された小娘程度に挽肉にされるとは」


 第零師団の師団長であるロッキーは、全滅した部下にある感情を抱いていた。


「“情けない”」


 第零師団は影と闇から、いつだってアカシア王国を支配してきた。

 なのに、いつからだろう。


 かつて、第零師団が要人を抹殺し、アカシア王国を掌握していた時代があった。

 なのに第零師団が、裏舞台でも輝かなくなったのはいつからだろう。


 かつて、トロイが王国随一の騎士団だった時、そのトロイの決定権を握っていたのは第零師団だった。

 なのにトロイを陰から操る紐が解れ始めたのはいつからだったのだろう。


(カーネル……そして特に“ヴィルジン”のせいだ)


 

 ただそれだけが、ヴィルジン国王のマニフェストだった。


 、倫理を犠牲にしようとも、王国を強くする。それを成し遂げんとする支配者ヴィルジンの在り方が、第零師団にとって都合の悪い方向へ王国を変えてしまった。


 トロイの力は押さえつけられ、間接的に第零師団の力も削がれた。

 結果、第零師団はただの暗殺集団へと変わり果てた。歴史ある組織は、ただの雑用係へと変貌していた。


「第零師団を軽く扱う事は……俺を軽く扱う事は許さん」

 

 変革の時だ。

 その一歩目で、第零師団は全滅してしまった。

 その衰退を許さない、ロッキーという師団長を残して。


「ならば……この魔石“ダイヤモンド”を使って、影から全てを支配していた、あの輝かしい第零師団をもう一度……トロイすらも吞み込んで、俺達が宝石の如く頂点に君臨する……」


 魔石“ダイヤモンド”の力が黒衣に染み渡る。

 フォトンウェポンの最大出力マグナムモードですら、この堅牢にして最硬の鎧を打ち崩すことは出来なかった。ダメージはゼロに抑えることは出来ていないが、この分ならばクオリアを潰すまで耐える事が出来る。

 ロッキーはそうやって、魔導器の力を信じていた。


「第零師団の再生の……礎となるがよい」


 クオリアを視界に捉えた途端、ロッキーは再び縮地で突進した。

 ダイヤモンドの最強硬度による純粋な音速の突進。当たれば即死。ケレンゲルよりも酷いミンチに生まれ変わる。

 しかしクオリアに、肝心の命中が出来ない。


『Execution Teleportation』

「……ちょこまかと」


 点と点を渡る移動によって、クオリアはその射線から外れていた。

 地面を掘りながら急ブレーキをかけて止まるロッキーは、再びクオリアに照準を合わせる。


 一方、クオリアも“最適解の中身”を口にする。


「状況分析。先程あなたに命中させた“荷電粒子ビーム”と、“魔導器”として登録された物質の表面具合より、あなたの“魔導器”の耐久度を算出。その結果、“Type GUN MAGNUM MODE”では、融解が拡散され、効率的な破壊が出来ないと判断」

『Type GUN NORMAL MODE』


 クオリアの右手にあった、ロングバレルのフォトンウェポンが短くなった。

 破壊力に優れている筈のマグナムモードから、連射力に優れているだけのノーマルモードへ戻った。


「その為、あなたの“魔導器”の同一箇所に連続して荷電粒子ビームを命中させる手法を選択する」

「何を言っている」


 自分の戦法を口にしている事に対して、ロッキーは油断しない。誘導ブラフの可能性もある。

 しかし、それでも同一箇所に荷電粒子ビームを当てるという発言には失笑を禁じえない。


「俺は縮地が使える。音速で動く的どうやって連続で当てるというのだ? もっとマシな三文芝居を思いつくのだったな」


 

 それがいかに愚かしい挑戦か、縮地を扱うロッキーだからこそ理解できた。


 挑発しながら、ロッキーは想像する。

 クオリアに狙いがあるとすれば、魔石“ダイヤモンド”に覆われていない眼の部分を狙ってくる事だ。だが眼を隠しながら動けば、後は魔導器ダイヤモンドがロッキーを守ってくれる。


 はたまた、古代魔石“ブラックホール”を堰き止めたように、魔石“ダイヤモンド”もハッキングして止めにかかるのかもしれない。だが魔導器である黒衣のつくりとして、金剛石並みの強度である布に覆った状態で魔石を設置している。

 また、更には魔力耐性の効果も別口で付与してある。魔石が魔力の干渉に弱い事は、クオリアが出現する以前から分かり切っていた事だ。だからこそ、対策済みだ。


 ロッキーは完璧にして堅牢な計算式に頷き、未だ無意味なを聞いていた。


「あなたの魔導器を破壊する為に必要な弾数は、108発と算出される」

「じゃあ頑張って108発を当ててみろ!」


 ロッキーが縮地を発動せんとする。

 瞬間移動でよけるのであれば、とロッキーはプランBを考えていた。


(奴が次に瞬間移動で消えたら、そのまま狙いをロベリア姫かスピリト姫に変えてやる……)


 ロベリアは勿論、手負いのスピリトにダイヤモンドの迅雷疾風をかわす余力はない。ぐちゃぐちゃになった二人を見てショックを受けている所にとどめを刺す。


 残酷な目論見を再確認し、ロッキーは一歩目を踏み出した――。



『Execution Teleportation』

「肯定。これより108発、あなたに荷電粒子ビームを放つ」



 その声は、ロッキーの隣から聞こえた。

 音も無く着地したクオリアの言葉に、瞬間移動を使ってくると分かっていたにもかかわらず、暗殺者ながら不意を突かれた。

 

 ロッキーが振り向く前に。

 肩に置かれたクオリアの手から、流れ込む。

 オーバーテクノロジーが。



『Execution Teleportation』

「……おわあああああああばばばばば!!」



 



 つまり、ロッキーは――10,000



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