第118話 人工知能、バックドアの存在を知る
『Type GUN』
「脅威を検出。排除する」
「……ぐぅ、ぅぅ……」
呻き声が一瞬聞こえた。
確認はしない。だが予測修正はない。
「クオリア。私は庭で戦闘しているスピリト達の応援に回ります」
「要求を受託する。ただしあなたと第零師団は戦闘機能上、相性が悪い。前線はスピリト達に任せ、あなたはこの部屋からスキルによる援護を要請する」
「理解しました」
第零師団は相手の気配を縫い、気づかぬ内に仕留める殺しのプロだ。また、彼らは一人一人が縮地を持っており、相手取るならば非常に速い戦闘対応能力が求められる。
外で第零師団に囲われ接近を許した場合、エスだと有効な近接戦闘の手段を持たない。スキルの発動中にゼロ距離まで忍び込まれたらアウトだ。
第零師団はその隠密能力で他の追随を許さない。
『ガイア』
「
極めつけとして、第零師団は全員“縮地”を会得している。
部屋の窓からスキルを発動しても、黒衣に包んだ集団は一瞬で距離を取り、その攻撃をかわしてしまう。
「さっきから、この建物で何が起きている」
リーベも気にしない訳にはいかず、窓の外を眺めながら戦闘の理由を尋ねた。
「現在、この建物は第零師団の襲撃を受けています。彼らの狙いは、ロベリアです。室内では隠密の範囲が広まる他、外から爆破行為などで破壊等、第零師団の攻撃に自由度が高すぎて予測が出来ませんでした。その為、リスクはありますがロベリアは障害物の無い庭に位置して、それをスピリト達が守る手法が一番安全という結論に至りました」
「第零師団……バックドアが組んでいた守衛騎士団“トロイ”の刺客か」
「説明を要請する。その“バックドア”とは何か」
「蒼天党の獣人だ。非常に各方面に人脈を持っている奴で、まだ小さかった蒼天党は奴が呼んだ獣人達で急成長した。古代魔石を調達したのも奴だ……繋がっていた人間共が“トロイ”だった……最も、
クオリアはの中で一つ、情報がアップデートされた。
それを聞いて、クオリアは一つの可能性を演算していた。
「仮説。アイナに攻撃、もしくは深く関与したのは、バックドアと推測する」
リーベだけではなかった。
エスも思わずクオリアの方を見た。
「仮説に至った理由を2つ説明する。1つはアイナが攻撃された直前、獣人による通行阻害を受け、更に煙幕による行動制限を受けた。しかし獣人も別の“雇い主”から指示をされていた。現状の王都環境を考慮した場合、指示が出来たのは獣人の可能性が高い。2つ目はアイナが攻撃された直後に、第零師団による襲撃を受けている。しかし襲撃タイミングは、明らかにアイナを攻撃した個体と連携関係になければ矛盾が生じる。つまり、獣人でトロイと連携を取っていた人物。それはバックドアという推測が出来る」
「……バックドアが、アイナを、殺そうとした……」
「現時点では証拠は十分に満たされていない。アイナを攻撃したのは第零師団である可能性もある。しかし現状一番可能性が高いと判断できるのは、バックドアがアイナを攻撃したという仮説だ」
しかしリーベは半信半疑という様子で、怪訝な表情を浮かべたままだった。
「しかし何故奴が……奴は獣人だぞ。アイナを殺す理由が無いだろう!?」
「仮説。それはあなたを、再度人間への脅威として確立させる為と推測する」
「……俺を?」
「リーベが古代魔石“ブラックホール”を流出させた意図には、間違いなく王都の壊滅が含まれている。しかし
実際、リーベ自身が古代魔石“ブラックホール”を使って特攻する意志があった。役割を担わせる必要も無かったのだろう。何故なら自分から王都と心中してくれるから。
「だがあなたはゴーストであり、先程まで存在が不安定になっていた。バックドアもあなたを発見することは出来なかったと推測される。そこでバックドアは、アイナの生命活動を停止させる事で、ゴーストの魔力源とされている怒りの感情を強めようとした。バックドアの狙い通り、あなたは再度ゴーストとして存在が安定した」
「……」
「更に先程、あなたから“噂”という単語をラーニングした。しかしその噂の情報は、アイナの生命活動が停止したものである点が、矛盾が生じている」
“噂”。
リーベは思い出す。
アイナを示す少女が殺された。そんな噂を隙間から聞いてしまったのは、獣人同士の路上のやり取りがきっかけだ。
「また獣人の生命活動停止の噂が伝聞されやすいのは、獣人の集団だ。説明を要請する。あなたがラーニングしたという噂は、誰が発言していたか」
言われずとも、リーベはその可能性を疑い始めていた。
バックドアであれば、トロイと繋がっている以上、残りのブラックホールの在処も分かっている。リーベに渡すブラックホールを確保する事も可能だ。
バックドアの影響力であれば、“誇張された噂”を獣人のネットワークに流し込むことも容易い。アイナの死というウイルスを王都に流す事は彼には朝飯前だ。
……辻褄が合ってしまう。
パズルのピースが当てはまっていく事を、否定するつもりはない。
しかし、それが意味する事を、まだリーベは受け止め切れていない。
「だとしたら俺は……俺がやった事は……俺の蒼天党が……アイナを……」
その時、庭の戦闘で弾かれた刃が窓ガラスに突き刺さる。
リーベの眼には、過去自分が扇動した膨れ上がった蒼天党の憎悪が、今更自分達に襲い掛かっている様にも見えた。
だがクオリアはそんなリーベと刃の間に入る。
それこそ亡霊の様に彷徨う顔のリーベのやるべきことを、再認識させる。
「理解を要請する。脅威である第零師団に対し、“ハローワールド”とスピリトが、この場所も死守する。だからあなたには、アイナに“頑張、れ”を送ることを要求する――脅威を認識」
『Type GUN』
また一つ、
その向こう側で、暗殺者を逆に暗殺する。
「そして脅威の消失後、
両手に二丁のフォトンウェポンを携えながら、外の戦闘を搔い潜って侵入してきた害虫を検知する為、再度肌や耳で感じる事の出来る状況をつぶさに捉える。
そんな集中し切ったクオリアの背中を見て、リーベは一人うなだれた。
だが、ふとリーベは目線を外に動かした。
一瞬だけ地面を、流星の如く駆け抜けたからだ。
自分のしてしまった事を理解し始めながら、その先の景色を見た時だった。
「ちょっと待て。クオリア」
その瞬間だけは、リーベも何もかもを忘れた。
あまりに在り得ない光景が広がっていたからだ。
「お前が何故あそこで戦っている? お前はここにいるのに」
リーベは遂に見た。
クオリアがシャットダウンからダウンロードした、2つ目の機能を。
この時、クオリアは建物内の侵入した暗殺者の迎撃を行っていた。
同時に、庭でロベリアとスピリトを守りながら第零師団と戦闘を繰り広げていた。
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