第119話 人工知能、暗殺集団と激突する
『
シャットダウンから参照した2つ目の機能を発揮した時、流れたのはこのアナウンスだ。
参照した機能は“
例えるならば、コインを投げて表と裏が出た場合を両立させてしまう機能である。
例えるならば、同時に複数の門を潜る機能である。
例えるならば、右と左を同時に見る機能である。
ただしこの機能は、
精々、もう一つの自分の状態を創るくらいしか出来ない。
建物内でリーベやエスに同伴し、侵入した暗殺者を排除するクオリアと。
庭でロベリアやスピリトを守り、第零師団に立ち向かうクオリアを両立する事しか出来ない。
ただし第零師団相手の場合、クオリアは一体で十分である。
(……くくくく、気付いてない気付いてない……)
ある暗殺者が、クオリアとスピリトのガードが薄い方角から、庭の中心にいるロベリアへ近づいていた。常人では彼らの気配を察することは出来ない。
雑踏の中であれば通行人に紛れて頸動脈を断つ。
警備の中であれば空気に紛れて音も無く首を折る。
そしてロベリアが死んだ事で動揺した隙に、他の二人も刈り取る。
「予測修正無し。6人目」
『Type GUN』
閃光が暗殺者を貫いた。
「……え?」
自分の胸に風穴が空くまで、暗殺者は自分が刈られた事に気付かなかった。
気づけるわけがない。三人ともこちらを見ていない。全員暗殺者の接近に気付いた様子はないのだ。
にも関わらず――銃口だけがこちらを向いていた。
クオリアだけは、遮断されていた気配を読み取っていた。読み取る事さえ出来れば、クオリアは見る必要が無い。
ノールックで、仕留める事が出来る。
「……見る必要さえ……ない、だと……」
一人の暗殺者が庭の養分となるのだった。
「あのような殺され方をされては、第零師団の名折れよ!」
それを見た他の暗殺者が一気にクオリアへ殺意を向ける。仲間の仇には無頓着だが、第零師団の名に泥を被せる様な行為が癪に障った。
一気に五人の暗殺者達がクオリアの周りで音速の歩法を披露する。
縮地。
音速を超えた、前人未到の神速。
速過ぎて、目には写らない。疾風に相乗りする鎌鼬を目視出来ないように、放たれた銃弾を感知できないように、彼らの全力の俊敏性も認識する事が出来ない。
「小僧……恐怖と後悔を以て贖え……」
しかも出鱈目な速度を保っておきながら、流麗な乱舞を演じているかの如く、不規則な軌道でクオリアの周りを駆け巡る。クオリアを翻弄し恐怖に歪ませることで、第零師団の威厳を取り戻そうとした。
しかしクオリアは無表情のまま、状況分析結果を出力した。
「予測修正、無し」
「あああああああっ!?」
「縮地を……見切れるというのか!?」
二人目、三人目。更に両手両足に
「……生憎様。私が散々縮地見せちゃったからね」
目視が追い付かない筈の脅威に
“見えなくとも駆け抜けた足跡と、スピリトとの戦闘経験による類推”のみでクオリアの予測は十分すぎる精度にまで研磨された。見えずとも、予測できれば攻略可。スピリトとの模擬戦闘で実証済みの証明問題である。
「一気に畳みかけるぞ!」
「この……!」
残った二人の暗殺者が、破れ被れでクオリア目掛けて突き進む。判断してからクオリアの喉元に到達するまで1秒にも満たない。互いの獲物が、刃が、クオリアの体に今放たれた。
『
「いない!?」
しかし、その到達地点にクオリアはいなかった。
自らの攻撃が空を斬り、驚愕して立ち止まった暗殺者二人の真横に出現した。
『Type SWORD』
二閃。暗殺者相手でも呆けていれば十分に隙を付けた。
二人の両肩から腕がぼろ、と落ちる。一閃につき二人の腕を一つずつ切断していたのだから。
「あ、あぎゃああああああああああ!」
「無力化、確認」
そうして、証明終了までの途中式の如く、
直後、クオリアの銃口はスピリトと対峙する暗殺者に向けられたが――もうその必要は無かった。
「
音速の彼方から、三人のスピリトと暗殺者が出てきた。
足を止めたスピリトは一人になり、暗殺者は縦に綺麗に斬られて二つになった。
「馬鹿な……俺達第零師団が……こんな子供らに」
驚愕する第零師団の生き残り。だが庭は、第零師団の体で死屍累々の絨毯になり替わっていた。
ある暗殺者は心臓に焼け焦げた風穴があった。死んでいた。
ある暗殺者は両手両足に焼け焦げた風穴があった。苦しんでいた。
例外なく、遮るものの無いロベリア邸の庭で、月光を浴びたまま横たわっていた。
「これだけトロイの闇である第零師団が生きているなら、ウッドホースの事も聞き出せそうね……ま、こんな集団がいる時点で、もうトロイは髪の毛一つ残さず終わりにするんだけど」
スピリトの背後にいたロベリアが、あくまで守られている位置は崩さないままで、まだ息のある刺客達を睨む。
一方でスピリトは未だ闘争姿勢を崩さない。ロベリアと比べればこちらの方が感情が豊かではあった。
「聞き出すのは第零師団全部倒してから。多分まだリーダー倒してないと思う。クオリア、あと何体いるか計算できる!?」
「室内に位置する
「さっきの暗殺者さんの言う事が違っていたり、増援呼ばれていなければ、だけどね」
「気を付けて! 一応こいつら全員縮地使ってきた。それなら残りも全員縮地が仕えておかしくない筈だよ!」
しかしここは阿鼻叫喚の激痛に苛まれた暗殺者が虚偽や間違った情報をインプットさせたわけでも、都合よく増援が現れた訳でもない。
答え合わせ。
本当に、第零師団は残り二人だ。
■ ■
「……情けない。暫し平和だったからといって、死線での振る舞いがここまで錆びるとはな」
「いいえ。クオリア君とスピリトさんはよくやっていました。特にクオリア君は、人体を貫く光線に、縮地を超える瞬間移動術。特筆すべきは明らかにこちらの動きを学習する能力。これは殺しがいのある相手過ぎて、武者震いがしますなぁ……」
第零師団の師団長であるロッキーと、第零師団随一の実力者であるケレンゲルはここまで突出していった仲間達の惨憺たる結果に思い思いの感情を抱いていた。
勿論、このまま遠くから眺めているだけのつもりもない。最終手段として自分達が出なくては収まらない事態になったというだけだ。
「しかし、奴らの攻撃手段はよくわかった。いずれにしてもクオリアとスピリトを倒さなければチェックメイトは出来ん」
そう言うと、ロッキーは黒衣に包んでいた魔石を月夜に晒す。
宝石と見違えるくらいに、綺麗なものだった。
『ダイヤモンド』
光が反射する海面のごとく、さんざめく。
それは確実に力を発揮しながら、黒衣の中に沈んでいた。縫い合わされるでもなく、黒衣と一体化していた。
一方でケレンゲルの手には、大柄な体さえ小さく見える長剣が握られていた。
『レイ』
その柄に、一層瞬く光を持つ魔石が同化している。
「ロッキーさん。いい時代になりましたなぁ。武器や防具に魔石を嵌め込むことが出来る時代になったとは……」
「“魔導器”。魔術人形と並行に発明はされていたが、魔術人形に有用性を見出したせいで開発は遅れていた。これも非公式の試作型といった所らしいがな……」
「ウッドホースさんの切札もこの“魔導器”だとか?」
「ああそうだ。忌々しい」
二つの魔導器に魔力が集まっていく感覚を覚えながら、第零師団最後の二人が影から飛び出す。
「クオリアは俺が潰す。ケレンゲル、お前はスピリト姫をやれ。“剣士殺し”のお前には、うってつけの相手だろう」
「ええ。アカシア王国剣術大会で優勝した晴れ姿を一目見た時から、一度ヤってみたいと思っていたんですなぁ……」
「さあ行くぞ。我ら第零師団の光はすぐそこだ」
クオリアとスピリトが視界に入った。
クオリアは銃口をこちらに向けている。しかしそのトリガーが引かれる前に、二人は“魔導器”の力を解放した。
ロッキーは全身を纏う黒衣と同化した金剛石の人工魔石“ダイヤモンド”を。
ケレンゲルは長剣に付与された光線の人工魔石“レイ”を。
同時に発動した。
「
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます