第112話 人工知能、暗殺者と戦う①
念の為エスをアイナの所に残して、クオリアは
「……」
共に駆けるスピリトが、違和感の塊を見たように怪訝そうに顔を覗いてきた。
先程自分が
「理解を要請する。建物内の空気情報、微量の音から認識外のパターンを察知。意図的に位置的情報を削除している傾向が見られたため、害を及ぼす脅威として認識した」
「いや、それは……ナイス判断なんだけどさ……」
クオリアの予測は外れていた。スピリトはクオリアの行動に疑いがあったわけではなかった。
「脅威を認識」
直後、クオリアはまた5Dプリントを起動する。
『Type GUN』
右側上方向に一発。
何の前触れも無い
「は、え?」
「脅威の無力化を確認」
脈絡もない攻撃に、スピリトも固まらざるを得ない。
だがその内一人は近くにいた。部屋の扉を開けると、黒い何かが蠢いていた。
黒衣、顔を隠すマスク、そして手に握られていた毒付きのナイフ。刺客と判断するには十分過ぎる程条件が揃っていた。
「ごぼ……か……」
胸の真ん中に焼けた風穴を抑えたまま、丁度こと切れた。
心臓を融解された遺体を流れ作業としてチェックすると、クオリアは即座にロベリアの下に駆ける。スピリトさえも一瞬戸惑う程に、スムーズだった。
「クオリア、君……いや、なんでもない」
今、自分達が
いつも通り淡々とした顔つき。
しかし、淡々とし過ぎている。
どこか敵を無力化する方針から、敵を排除する方針に向かっている気がする。魔術人形が指示通りに命を刈るのと同じように、敵とみなした対象を殺戮する作業を淡々とこなし過ぎている気がする。
一方でその後姿は、どこかまた大事な物を傷つけられることを、心から恐れている様にも感じられた。
■ ■
「一発目で無力化した脅威を認識」
クオリアとスピリトが辿り着いた時には、黒衣の刺客は床にて悶えていた。先程の刺客と違い、腹部だった為に即死は免れた。
だがそれもクオリアの狙いだ。人間というのは、死んでしまっては話を聞くことも情報をインプットする事も出来ない。故に生かしてある。
「クオリア君、さっきの君? だよね?」
「肯定」
「うん、ありがと、本当助かったよ……当然のように隠密行動を見抜くんだ」
その隣に佇んでいたロベリアは、予めこの展開が分かっていたかのように特に狼狽もしない。しかしクオリアのノールック射撃には舌を巻いていたようで、暫くクオリアに頷く事しか出来なかった。
血を吐く刺客も、クオリアが自分を貫いたのだと理解したようで、震える目線を向けた。
「馬鹿……な……なぜ、俺の場所が分かった……!」
「あなたの説明要請は却下する。説明を要請する。あなたは何故この敷地内に侵入しているのか。あなたからは攻撃的意図がラーニング出来る」
理不尽に言い放ちながら、クオリアは刺客を見下ろす。
「第零師団」
その問いに答えたのは、横で腕組をしていたロベリアだった。
僅かに刺客の頭がぴく、と動いた。クオリアはその第零師団で正しいと認識した。
「……トロイには暗殺専門の部隊があるって話。噂でしか聞いた事が無いけど、本当だったのね」
「な、なんの事だ……」
刺客は痛みに喘ぎながらも、首を横に振った。しかしクオリアだけでなく、ロベリアとスピリトも刺客の嘘を確信していた。第零師団ではなくとも、ロベリア達の命を狙った暗殺者であることには変わりはない。ましてやこのタイミングは、トロイの総団長たるウッドホースが差し向けたとしか思えない。
この刺客の、最後の意地にしか見えない。
「何をするの」
「最適解、算出。この個体から、情報をアウトプットさせる」
だからこそ、クオリアはアウトプットさせる。
人間のルールで、自白させるために。
クオリアは、刺客へ右手を向けた。
「“5Dプリント機能作動”、クラッキング開始」
五本の指から、蒼白い
五つの線が、一瞬で刺客の体を網羅する。
ただ刺客の
「おっ……ぼっ……!?」
突如刺客がのけぞった。
「あ、あばあ、あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばああ!!」
明らか腹部の傷口由来ではない苦しみ方だった。全身に針を刺されたかのように、あちこちを手で押さえながら、涎塗れの口で悲痛な叫びをあげていた。
「な、なにをしたの!?」
「5Dプリントを使い、2点
「な、な、ん、だ、ぞれ、えええええええええええええええええ!?」
つまり、神経が暴走して激痛が無限に発生するようになったのだ。気絶すら、させてもらえないように。
クオリアがやった事。
それは敵の肉体を
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