第99話 人工知能、トロイの木馬を警戒する③
ロベリア邸から離れて直後、ウッドホースはこれ見よがしに舌打ちをした。
腹心の部下も心底落ち着かない様子を見せる。
「……明らかに勘付かれていますね」
「ああ。確認しに来てよかった。ロベリア姫め。完全に俺が古代魔石を横流ししたと睨んでやがる」
「いかが致しましょう」
「暗殺専門の“第零師団”を呼べ」
腹心の部下が、遂に来た正念場に興奮したのか、冷汗塗れの口元にニヤリと笑みを浮かべる。
「ロベリア姫を暗殺するのですね」
「ああ。だが、いの一番に死んでもらうべき奴がいるぞ。クオリア君だ」
腕組をしながら、眉間に皺を寄せるウッドホース。
「奴は侮れん。実際、古代魔石を止めたのもクオリア君だ。それにここから離れた場所に“本命”があると見込んだ。ロベリア姫が言っていた“技術”とやらは本物なのかもしれん。もしそうだったら、“本命”が見つかるのも時間の問題だ。それに制御をされたら、一気に向こうの切札になる」
「しかし、奴の実力は侮れません。第五師団が奴に全滅させられています。第零師団と言えど、しくじる可能性もあるかと」
「お前の言う事ももっともだ。だが、俺に考えがある」
ウッドホースもクオリアの実力を軽んじている訳ではない。
第五師団を壊滅してくれた時から、更にロベリアが手ずから設立した“ハローワールド”の守衛騎士であると知った時から最大限の警戒を払っていた。あのロベリア姫が、一般人を巻き込むはずがないと、彼なりにロベリアを評価していたが故の警戒だった。
「第零師団にクオリア君を監視させろ。だがすぐには動くな。あるタイミングまで待て」
「あるタイミング、とは?」
ウッドホースはこれからクオリアに起こるであろう“悲劇”を想起しながら、どこか興に乗じるように口にするのだった。
「バックドアが行動を起こし、その“悲劇の結果”にクオリア君が出くわした時だ。人間である限り、あの瞬間だけまともに思考ができまい」
■ ■
「状況分析。矛盾する点は数箇所存在するが、ウッドホースが古代魔石“ブラックホール”を流出させたという推測を裏付ける事は出来ない」
結局、決定的な証拠は掴むことは出来なかった。
とはいえ、クオリアの中でもウッドホースが“怪しい”と訝しむ所までは来ている。
「しかし、本推測を否定する事も出来ない。引き続きウッドホースの分析を実行する」
一方でロベリアは、ウッドホースが古代魔石の流出の張本人であると判断したようで、別の貴族を招き入れていた。ウッドホース程危険ではない為に、護衛はスピリトで済ませており、クオリアが気づいた時にはその貴族は帰路についていた。
気になるのは、クリアランスの騎士達が護衛についているという事。要人警護が凄まじい。
「ロベリア。説明を要請する。あの人間はどのような種類か」
「オルトグライ侯爵の弟のテスタロッサ子爵」
過去の記録を参照する。かつてスピリトと模擬戦闘を繰り広げている時に因縁をつけてきた、トロイの元第五師団長エドウィンの父、それがオルトグライ侯爵だった。息子の悪行を権力で塗り潰してきた経緯から、ロベリアとカーネルに家を取り潰され、ウッドホースからも除隊されたと聞いている。
「エドウィンとオルトグライ、あの直後に死んでるの」
「説明を要請する。何故生命活動を停止したのか」
「路頭に迷っているところを野党か何かに襲われて死亡って表向きはなってる……でも悪知恵の働くあの二人なら、自分達が爵位はく奪された後も逃げる先用意してそうなものだけど……なんかあっさり死に過ぎてるのよねぇ」
クオリアとロベリアは、再びクリアランスに両脇を固められたテスタロッサ子爵を見る。やたらと恐怖が顔に貼り付いていて、貴族だったにも関わらず頬が痩せこけていた。
「さらに同時期からテスタロッサ子爵が引き籠るようになってね、疑問に思ったカーネル
「説明を要請する。テスタロッサは何を話していたのか」
「ここ重要ね」
ロベリアはそう前置きした上で、声を低くして伝えた。
「このままじゃ、ウッドホースに殺されるって」
曰く。
エドウィン子爵とオルトグライ侯爵は、総団長であるウッドホースと何か暗躍していたらしい。トロイとは関係の無かったテスタロッサ子爵としては何を暗躍していたかは不明だったが、生前オルトグライ侯爵はこんな事を言っていたらしい。
『古代魔石の力で、俺達は新時代に歴史を刻める』と。
「しかしクオリア君にやられて、ウッドホースから蜥蜴の尻尾切りにあったって感じね」
「この場合、テスタロッサの発言を、ウッドホースが不正を行った証拠に出来るのか」
「……まだ弱いわね。でも切り口に出来る筈」
しかしロベリアは強く頷き、事態が進展している事をクオリアに伝える。
「……決定的な証拠を待っていたらブラックホールに全部食われる。その前に言い逃れ出来ないくらいの状況証拠でも積み重ねてやる。私が今日まで培ってきた伝手を最大限に活かして、ウッドホースの化けの皮を剥ぐ」
ロベリアが見た方向は、裏庭の方角だった。
ラヴを示す十字架がある場所だ。
「この王都を、ブラックホールの餌食になんてさせない」
「……」
「ま、ここはお姉さんに任せて。クオリア君はアイナちゃんと一昨日出来なかったデートでもしてきなされ。なんか行きたい所あるって言ってたよ?」
おっと、噂をすればとロベリアが視線を向けた先、アイナとエスが歩いてくる。
「クオリア。私達と同行を要請します」
「説明を要請する。どこに移動するのか」
真剣な面持ちで、アイナが答える。
「私なりに、偽善でもやりたい事があるんです。昨日と、一昨日の事で。まずは供える献花を買いに行きたいです」
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