第73話 人工知能、魔術人形と決闘する①
舞台を降りるカーネルは、千差万別の声が錯綜する空間の中にあって、一人だけ落ち着き払って舞台を眺めていた。
「エス以外の魔術人形は?」
「ディードスの背後の幕に隠れています。接触した結果、反撃を受けた為様子を伺っています」
舞台を飾る幕。
その裏には、商品としてこの後出てくる予定だった魔術人形が並んでいる。
魔術人形相手で厄介なのは集団戦だ。魔術人形は連携を得意とする。
魔石を通じたネットワークで、互いの情報をゼロタイムで同期し完全無欠の連携で圧倒する。迂闊に斬り込めばクリアランスの精鋭と言えど、無傷ではすまない。
「分かったわ。半分は魔術人形を引き続き監視と分析、準備が出来次第破壊なさい。残りはあの二人の戦いに横槍を入れようとする輩がいないかを監視……もしクオリアがヤられちゃったら破壊出来るよう、エスの“スキル”を見ておくのよ」
クリアランスへの指示を済ませると、胸元から葉巻を取り出す。
隣に立つクリアランスの隊長がその先端に着火し、物憂げな表情でカーネルに尋ねる。
「クオリア君は本当に、魔術人形に心があると考えているのでしょうか」
「クオリアも未知の魔術を使っているのは確か。彼にはアタシ達には見えない、何か別の理論が見えているのでしょうね」
カーネルの口から、葉巻の煙が輪となって放たれる。その輪の向こうに、クオリアの後姿があった。
「その結果、魔術人形には心がある、ですか。それを彼は証明出来るんですかね」
「出来る訳ないわ。けど彼ならやってしまうのかもしれないわね」
『ガイア』
魔石から緑光の小川が迸る。
エスを鎧の様に取り囲む。
「
直後、地面から先端や断面が飛び出した。
まったく予兆の無い真下からの刺突を、しかしクオリアはそれよりも前に動き出して回避する。
何故なら、1秒後の世界がクオリアには見えているから。
「回避されました」
「何をやっているエス! これでは宣伝にならんだろう……!」
焦燥するディードスの叱咤が、エスの後姿に突き刺さる。
その間にも地殻変動は繰り返される。突き出す円錐と円柱。舞台が瞬く間に槍衾の竹林へと変貌していく。
クオリアの足場が奪われていく。
まともな平面は消え、下手すれば尖った足場がクオリアを待ち構えている。
舞台の外に出ようにも、先んじて塀を張られて出られない。
そもそもクオリアの最適解に“逃げ”は存在しない。
『Type SWORD』
銀の柄を生成すると、
「……攻撃手法を増加させます」
“ガイア”のスキルは更に稼働する。
気づけば、クオリアの四方八方から巨大な石造りの槍や鉄槌が迫る。
クオリアが見上げると同時、全てがクオリアの下へ着弾した。
はち切れんばかりの轟音。舞い上がった砂埃。
誰もが確信した。
クオリアはあの砂埃の中で潰れていると。
「最適解変更、予測の軌道と僅かな誤差あり」
しかし、砂埃から出てきたクオリアは駆ける速度を緩めない。
一切の無傷。全てをかわしていた。
「防御手法へと変更します」
エスの目前に重厚な壁が競り上がる。
しかも、津波の様にクオリアへと猛進するのだった。
流石にクオリアの足が止まる。だが即座に三閃を描き、空いた三角形の穴からすり抜けた。
「……おいおい、大丈夫かよ魔術人形」
「いや、あのクオリアって奴がさっきから強いんじゃないのか……? あんな剣、見たことないぞ……」
一種の芸術作品と化した舞台を見て、観客席にも不穏なムードが漂い始めた。エスを否定し始める声を一つ残さず耳にして、ディードスの青筋が酷く増加する。
「エス! いい加減にしろ! そんな人間一人仕留められないとは何事だ!」
「クオリア、私にはわかりません」
観客からの評価も、ディードスからの罵声にもエスは反応しない。
ただ、生まれ始めた問いへ思考を向けていた。
「何故『Type GUN』を先程からあなたは使用しないのでしょうか」
後ろでディードスが眉を顰める。クオリアへの問いを許可した覚えはない。
「お前はリーベとの戦闘で、『Type GUN』を使用しました。あの『Type GUN』であれば、私のスキルを貫通して、私へダメージを与える事が出来る筈です」
「それは最適解ではない。あなたへの損傷が懸念される」
「私には、分かりません……あぁ、思考に不具合が発生、修正します」
クオリアの眼には、無理やり納得するようなエスの姿が見て取れた。
前世で、『心とは何か』に対して無理やり解を出した
「不具合、修正しました。これよりお前への攻撃行為を再開します」
「あなたは誤っている。それは、
エスの胸が更に明るくなると、“ガイア”のスキルが辺りに浸透する。
案の定、大地からそれは突き出してきた。しかし今度は変形した大地ではない。
大地に、亀裂が走った。
大樹の幹が、這い出た。
「魔石“ガイア”によるスキル深層出力、
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