第55話 人工知能、オカマの貴族と話し合う①

 翌日、玄関でロベリアが倒れていた。

 原因は蒼天党の一件の後処理と、対処について重鎮と夜通しでディスカッションをしていた為だという。

 第一発見者はクオリアだった。


「クーオーリーアーくーん。おんぶを要求する……もうロベリア王女の体力は0ざます。お姉さんを甘やかして」

「要求を受託する」


 深夜に大人達と意見をぶつけ合うにはまだ若い体が、クオリアの背で存分にぐったりとする。

 結果、肩甲骨に甘いノイズを走らせる二つの巨大な塊を検知した。

 昨日抱擁した際に検知したアイナのそれよりも、大きい。


「エラー……軽度の予期せぬ演算を……」

「お? なんかクオリア君、赤くなっておりませんかい?」


 頬を突きながら、ロベリアが興味深そうにわずかに表情が崩れるクオリアの横顔を見た。男の子らしい反応を待っていたようだ。


「ああでも良かった。昨日は休めたみたいね。少しは元気になった?」

「……本肉体ハードウェアにエラーはない」

「体の事じゃないよ。昨日あのマインドって獣人が殺されて、すごいショックを受けてたから」

「最適解は算出している。自分クオリアは人間として、昨日の課題をフィードバックし、次回の演算に活かす」

「……ま、いつものクオリア君って事で。昨日は初任務お疲れさまでした。掛け値無く、君のおかげで王都は消滅の危機を免れました」


 後頭部を撫でられた。

 更に後ろからほとんど抱き着かれているような体勢。

 まるで優しい光を当てられたような、アイナの全感覚を思い出す。

 昨日アイナと約束した、“人間でいる事”という約束も思い出す。


 一方で、クオリアはロベリアから感じられた微々たる変化点にも気づく。


「あなたは非常に消耗をしている。これは深夜に活動していた事以外にも、原因があると推察する」

「かなり議論がオーバーヒートしちゃってね」


 背中にしがみ付くロベリアが、頬を不服そうに膨らませる。


「だって投降した、捕まえた獣人を全員見せしめに処刑しようとしてる奴らが多いんだもん」

「蒼天党の獣人の生命活動を停止させるのか」

「私は絶対に猛反対。そりゃ首謀者とかは仕方ないにしても、何千人といる蒼天党のメンバーを全員殺すのは間違ってる……更にはこれを機に関係ない獣人まで弾圧しようとしている訳よ」

「それは、誤っている」


 クオリアの背中に顔を埋めるロベリアから、小さくつぶやく声が聞こえる。


「でしょう? それじゃ、みんなが心から笑える世界にならない……それじゃ、ラヴが望んだ世界にならない」

「……提言する。あなたは今は、休養するべきだ」

「んー、寝たいところなんだけどさ。この後客人が来るのよ。今回の蒼天党の一件について、意見を交換したくてね。とりあえず着替えだけしたい……」

「説明を要請する。誰が訪れるのか」


 登録されていた人物名を検索。二日前、トロイの第五師団を討伐した後ロベリアとスピリトが口にしていた。

 カーネル公爵という、ヒエラルキーとしては相当上位に位置する存在だ。


「ヴィルジン派で結構癖あるけど、一応筋は通ってる。それに今回の一件についても本質的に見ようとしてくれてる……この蒼天党の件、黒幕がいるっぽくてね」

「その黒幕について、情報を交換するのか」

「で、古代魔石についても話したいことがあってさ。クオリア君も一応同席してくれる? ハローワールドの顔合わせも行いたいし」

「要求を受託する」


 その後、執務室で降ろすとロベリアは「あんがと」とお礼を言いつつ、次の指令を伝える。


 ロベリアがドアを閉めた事を見届けると、再び玄関に向かう。

 アイナを探したが、折悪く見つからない。


「人間認識」


 しかもその途中で玄関に来ている馬車を窓から確認した。馬車からはロベリアの説明通り、緑の髪をオールバックにしてる唇少し厚めの50歳くらいのスーツの男性が二人の騎士と共に降りてきた。


「人間認識。あれはカーネル公爵の直属騎士団“クリアランス”の記録と一致」


 周りを固めるのは、かつてトロイ第五師団長エドウィンを連行したカーネル公爵直属騎士団“クリアランス”の甲冑。そうなると、中心にいる人物はカーネル公爵と推定できる。


 そのままクオリアは窓から飛び降りて、ショートカットした。

 当然カーネルもクリアランスの二人も視線が注目する。


「――なんていうか、アグレッシブな子ね、アナタ。でも見ない顔。ロベリア姫の客人かしら?」


 思ったより高い声で、しかも男性のパターンとは違う話し方をされた。

 だが目前にいるのはカーネル公爵で間違いない。


「本個体は守衛騎士団“ハローワールド”の一員、クオリア。役割は“美味しい顔笑顔”を創る事」

「おお、この子が……?」


 後ろでクリアランスの二人が顔を見合わせて、ざわめく。


「見た目は女の子と間違えそうなのに、いい声ね。迷いが無いって感じ」


 一方でカーネルは特に狼狽えることなく、逆に自己紹介を返すのだった。


「アタシはカーネル=アカシア公爵。現国王ヴィルジン=アカシアの従兄ってトコかしら? 昨日の蒼天党がやっちゃった件で、ロベリア姫とお茶しに来たわ。あと、ハローワールドのクオリア、君にもね」

 

 

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