第56話 人工知能、オカマの貴族と話し合う②
「さーてと。まず本題から入るわね、少年少女達」
若干枯れた男声が、ソファにどっしりと座るカーネルから発せられた。
「蒼天党の襲撃は多分終わらない。第二波がどこかで来るわよ」
「理由の説明を要請する」
質問に回答をしたのはロベリアだった。
「管理下から消失した魔石の数と、実際に使われた魔石の13という数が合わないからよ」
「それも大幅に、ねぇ。残りは何処に行っちゃったでしょう?」
両肩を竦めて軽く言ってみせた直後、低く重い男声がクオリアに向けられる。
「一個でも
「状況分析。残りの古代魔石は、王都には無い」
「あら。なんでそんな事言えちゃうの?」
「
三人はクオリアの私室に移動していた。
空間の中心に、人間大の円柱がずっしりと聳え立っていた。家主であるロベリアも知らないオブジェだった。
「……こんなもの私、家に呼んだ覚えないんだけど。クオリア君が作ったの?」
「肯定。5Dプリント機能により構築した
「これがロベリア姫が言っていた、古代魔石探索のからくり“
腕を組みながら興味深そうに観察するロベリアとカーネルを尻目に、クオリアの右手に眼球サイズの透明な膜――コンタクトレンズが出現する。それを右目に装着し、得られる情報を読み上げる。
「現時点では本地点から8時の方向、4.358km地点にある3階建ての建物、その地下一階に13個の無力化された古代魔石“ブラックホール”を確認」
ぱんぱんと、カーネルが感心した様に手を叩く。
「恐れ入ったわ。その場所にある事どころか、建物の形まで把握できるなんてね。一応機密情報で、私と信頼できる数人しか知っている人はいない筈……古代魔石を止めた実力は本物って所ね。ちなみにそれ、私も知る事出来るかしら」
カーネルもコンタクトレンズを受け取る。
「これ眼球に貼ればいいのね?」
「肯定」
「いやカーネル公爵、そんな異物を目に……」
同行していたクリアランスの騎士達が狼狽の様子を見せる。この世界では目を補助する機器は眼鏡だけだ。コンタクトレンズは概念からして存在しない。
しかし呆れたように鼻で笑うカーネルだった。
「あんた達それでもタマあるの? あの
「喩えが酷すぎる! いや失明したらどうすんですか」
「技術革新に犠牲は付き物! 魔術人形だってそうやって作られたんでしょうが。手番がアタシに回ってきたってだけよ……代わりに未知の技術に一番乗りさせてもらうけどね」
カーネルは右目にコンタクトレンズを貼り付ける。脳波経由でコンタクトレンズに映し出された古代魔石の位置、辺りの物質配置情報をカーネルに教え込む。一通りのレクチャーを受けると、視界に広がるマップにカーネルが唸る。
「本当に恐ろしいわねぇ……。どんな魔術論理で動いているのか分からないわ……」
一瞬たじろぎながらも、咳払いをして話を戻す。
「これで索敵できる範囲は?」
「50kmと推定する」
「王都は十分にカバーできているわね。けれど、この50km圏外で発生したブラックホールがこの王都を飲み込む可能性もある。まだ油断はできないわ……これ何個か作れる?
魔術人形というワードを聞いたロベリアは眉を顰めないまでも、残念そうに息を漏らす。吐息を聞いたカーネルが細い目をぎょろりとロベリアに向ける。
「あら、どうしたのロベリア姫」
「……もしそれが“本命”なら、護衛なり罠なり一筋縄じゃいかない何かが待っていると考えるのが必然よね」
「そうね。敵も馬鹿じゃないでしょう」
「魔術人形を消耗品にしようとしていない?」
「武器は消耗品よ。魔術人形も同じ」
「それは違うと思うな」
「ロベリア姫。魔術人形は人じゃないわよ。新時代を告げる武器」
特にロベリアは表立って怒ってはいない。だが睨む目力は果てしなく深い。
カーネルもその深さを埋めるだけの意志で迎える。
「倫理じゃ国も人も守れねーのよ。それを守んのがアタシらの仕事よ」
「……」
「今は兎にも角にもブラックホールの発動を止めることが最優先事項。加えて本命のブラックホールを分けてまた上層に仕掛けないとも限らない。そんな動きをする奴らがいないか、
確認を投げられたクオリアは、順当に即答する。
「古代魔石“ブラックホール”発動を阻止を最重要目標とし、解決にパフォーマンスを集中させることは正しい。しかし」
純粋無垢で、素直な瞳がその言葉に嘘はない事を示していた。
「魔術人形を武器と分類する事は保留する」
「……もしかしてクオリア。アナタ、そのロベリア姫がかつて親友としていたメイドが魔術人形だったことは聞いていない?」
「エラー。その情報は登録されていない」
ラヴ。それが裏庭の墓に祀られた、ロベリアの親友の名前だった。
だが魔術人形だったのは初耳だった。ロベリアに説明を要請しようとするクオリアを見て、カーネルも本当に知らないことを察する。
「特に同情心とか無くその意見なら結構よ。まあ分かったわ。気が変わったらお茶しましょ」
カーネルもそれ以上嚙みつかず、またソファに座って話を続ける。
「問題は他にもあるわ。蒼天党リーダーのリーベ。彼は捕まっていないわ。その上かなりの実力者よ……あの
カーネルの懸念は陶器が粉砕された音に遮られた。
ティーを淹れて持ってきたアイナが、その場で固まっていた。
「………………………………………………………………………………………………………………………………え?」
蒼天党。
リーベ。
アイナがその言葉を初めて猫耳にしたのは、魂が抜けたように立ち尽くしている今だった。
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