第50話 人工知能、ひとまずの終戦を迎える③

「な、何事だ!? まだ蒼天党の残党がいたのか!?」


 ディードスは敵襲を察知し、辺りを見渡す。

 だが離れた場所にいるクオリアを発見することは出来なかった。


 一方クオリアはスピリトに押し倒されていた。

 軌道が逸れたのも、直前でスピリトに庇われたからだ。


「駄目! あれは道具に八つ当たりしているだけとしか捉えられない! 手を出したらクオリアが犯罪者になっちゃう!」


 馬乗りになったスピリトが必死に現実を伝える。

 魔術人形を守る法律はない。魔術人形は人として見なされない。

 

 エス達魔術人形が人ではない事は、クオリアも理解している。

 生命活動を示唆する値は魔術人形からは読み取れなかった。“美味しい”が感じ取れなかった。

 そう演算しても、魔術人形だったモノが踏み躙られる光景を見た途端、クオリアの頭からノイズが消えなくなった。


「それでも自分クオリアは判断する。あのディードスという人間の行動は誤っている」

「……正直、君の言う事も分かるわよ。あんなの、見てていい気持ちはしないわ」


 スピリトも共感はしているようで、苦々しい顔になっていた。

 クオリアがようやく立ち上がった時には、ディードスもエスも、魔術人形もいなかった。それでも暫く、さっきまで魔術人形達が佇んでいたエリアを見下ろす。


「状況分析。自分クオリアは、魔術人形と近似している」

「近似?」

「魔術人形達は、対象が何であろうと、あのディードスの指示をインプットに排除行動に移ると推測する」

「それが魔術人形。新時代の戦争の主役となる、“兵器”……と王国のヴィルジン派は宣ってるけどね。でも、君は人間でしょう」

「……不明」


 マインドを屠ったの獣人を破壊し尽くした瞬間が、フィードバックする。

 冷酷に、冷徹に、作業として繰り返した破壊行動を思い返す。


自分クオリアの先程の振る舞いは、人間ではなかった。あの魔術人形と変わらない。何より人工知能の構造は、魔術人形によく似ている。そもそも役割を果たすために、人間である必要はない」

「……今日は、もう終わりよ」


 スピリトの言う通り、もう完全に蒼天党は沈黙していた。

 もう戦闘をする必要はない。


自分クオリアは、避難所からアイナを連れて一度屋敷に戻る」

「それは私がやっておくから、君は先戻って休んでな」

「否決する。自分クオリアに休むという行為は必要が――」

「君は人間なんだから絶対必要!!」


 甲高い少女の大声が、クオリアの音声を上塗りする。


「……師匠の提言は聞いとくもんよ」


 大きく見開いた真っすぐな目を、クオリアは折ることは出来なかった。

 人工知能としての演算は、聞くなと言っている。

 しかし人間としての判断が、気持ちを受け止めろと言っている。

 何故、後者に従ってしまったのかをクオリアは理解しないまま、返答した。


「これより自分クオリアは、屋敷に戻る」



 だが、一人屋敷に戻ってもクオリアは休むという手段を取らない。

 自室に入って、5Dプリントを起動する。



「PROJECT RETURN TO "SHUTDOWN"を始動する」



 結論、人型自律戦闘用アンドロイド“シャットダウン”に戻ろうとしていた。

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