第45話 人工知能、まだ心は暗中模索

 ロベリアが空を見上げて、四方八方に飛び散った荷電粒子ビームを追想する。

 二人とも、半信半疑だ。


「まさか、さっきのビームっての全部直撃したの?」

「肯定」

 

 人工知能同士で無ければ、レーダーの情報はやりとり出来ない。

 人間は、物的証拠を見なければ十割の確信は出来ない。

 クオリアも人間になった今だからこそ、そう思うのもむべなるかなと理解している。

 

「あなた達への信頼度を上げるために、無力化した古代魔石の回収を推奨する」

「そうね。クオリア君、場所を教えてくれる? ……正直、何か大丈夫の様な気がするけど」


 ロベリアが広げた地図に、在処をバツ印で上書きしていく。

 三人が立ち上がり、一様に回収に向かったのは直後の事だった。

 

「……何でだろうね。今、もしかしたら一秒後には王都がブラックホールに包まれるかもしれないって言うのに、何だか安心しきってる自分がいるよ」


 下層とは打って変わって静かな上層を駆けながら、スピリトが呟く。

 ロベリアもあどけない笑いを見せた。

 

「あはは、言えてる。クオリア君が自信満々すぎるせいだよね」

「エラー。“自信満々”は登録されていない」

「君、徹頭徹尾迷いが無いんだよ。それ言ってんの」

自分クオリアは最適解通りに肉体ハードウェアを可動させている。迷いと分類されるノイズは最低限に抑えられている」

「うんうん。そうだね、昨日私らの裸をあんなに拝みまくったもんね」

「や、やめてお姉ちゃん、思い出させないで」


 スピリトが紅潮する一方で、クオリアは一切揺るがず前だけを見ていた。


「……迷いは無くて、でも使命はちゃんと持ってんだね」

「肯定。自分クオリア使命役割は“美味しい”を創る事……この王都には、“美味しい”が、笑顔が多数ある」


 自分の使命に続いて、クオリアは語る。

 ただ使命を忠実も演算する人工知能ではなく、使命の先に何があるのかを思考できる人間として。

 

「人間は、多くの誤りがある。その誤りから、“美味しい”を失い獣人達がこのような振舞いに出たと推測する」

「……多分ね」

「しかし、アイナに有益な行動をした女性を確認した。アイナからは、“美味しい”を多く検出した。それから推定できることがある」

 

 戦火が少しずつ収まりつつあった下層を、決して無ではない表情で見下ろす。

 

「この王都には、“美味しい”が多くある。多くの、相応しい“心”が、命がある」

「君、突然哲学的な事喋るよね?」


 スピリトに指摘されると、クオリアの瞳に僅かに宿っていた光が引っ込んだ。


「……エラー。心の定義は詳細には理解していない。現在のラーニング状況では、言語化は困難」


 思わず漏れた言葉を訂正したところで、クオリア達は2つ目の古代魔石を見つけた。

 それからは、とんとん拍子で13個の古代魔石を見つけた。

 どれも、稼働していなかった。クオリアのハッキングは成功していた。

 

「すごい。本当に全部無力化されてた」

「でも本当にこれで全部なのかな……」


 ロベリアも首肯する。

 

「今の所把握してる流出数よりも少ないね」

「この13個で全てかどうか、あなた達が確信する方法がある」


 クオリアは、少し前の記憶を思い出していた。

 獣人達に“作業”を指示していた、マインドの事だ。

 

「マインドならば、この13個で全てか理解している可能性が高い」

「マインドって、一昨日クオリア君が助けた獣人? あの獣人も集団の中にいるの?」

「肯定。マインドは他の獣人に指示をしており、管理者の役割をしていた可能性が高い。その場合、全ての古代魔石の位置を理解している可能性がある」

「成程ね……」


 ロベリアは、クオリアと共に近くの戦闘に眼を向ける。

 砂埃と鍔迫り合う音と、獣人達の断末魔でいっぱいだった。

 

 上層でも戦闘は激化していた。

 騎士達が潜んでいた獣人の存在に気付いたようだ。

 そして、撤退する獣人と騎士が激突している。

 

 上層の獣人は隠密活動の為か、数が少ない。

 完全に数の利で、獣人達が圧倒されている。制圧も時間の問題だ。

 

「マインドを認識」


 狼狽えるマインドの表情を確認した。

 クオリアは即座に反応し、マインドの下へ駆ける。

 会話出来る距離にまで近づいた時だった。

 

 

「動くなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 吼えたマインドは、人質を締め上げていた。


 まだ十歳にも満たない少女ががちがちと口を震わせている。同じくらいに震えているマインドの刃が喉元に密着していた。

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