第44話 人工知能、魔石にハッキングする②
クオリアの魔力が、古代魔石へアクセスを始めた。
アクセス第一階層。
ロベリアから得た事前情報を基に魔力を通じて触れ、魔石を象る全てを知る。
ブラックホールという宇宙まで再現出来てしまう程の、エネルギーの根源。
魔石を織りなす魔力同士の結合。魔力を象る原子構造。原子を象る素粒子の特長。
得た情報を開くと、また別の情報。
マトリョーシカの様にどこまでも深堀りし続ける。どこまでも因数分解し続ける。
気が遠くなる程の歴史を、全てクオリアは飲み込む。
最適解は、無限に重なった情報の彼方にある。
「古代魔石“ブラックホール”の情報を完全インプット」
全網羅に至るまで、38秒。
本にすれば1兆を優に超えるページ数の質量。
その情報は、クオリアの脳内へ全て学習された。
アクセス第二階層。
得た情報から古代魔石“ブラックホール”を停止するだろう魔力を当て、検証する。
もし発動の魔力を当ててしまえば、即ブラックホールが展開される綱渡りの状況。
高圧電流が巡る針の穴に糸を通すような極限の中、何千通りもの魔力を当て続ける。
「反応を確認」
ある魔力を当てた時、魔石の構造が僅かに揺らいだ。
「……人間、認識?」
集合体の魔力に、クオリアは見覚えがある揺らぎを認識した。
この揺らぎの中に垣間見えた光の値は、人の顔のそれと同じだった。
「……優先事項の低い内容として判断」
しかし人の顔をここで類推するのはおかしい。
“美味しい”の値を示す何かが、ここにあるのはおかしい。
時間が無い。ノイズに当たる情報は排除した。
「最適解を算出」
そして、23829通りもの魔力を当て、遂に作動を停止する
第三階層――に移る前に、する事がある。
王都中の古代魔石“ブラックホール”の個数と位置を特定しなければならない。
「“5Dプリント”機能作動」
クオリアが右手の光から生み出したのは、フォトンウェポンではなかった。
掌サイズの筒状という特徴は似ていたが、表面の凹凸が違う。
更に5Dプリントはもう一つ――透明な眼球サイズの膜を作った。
「何を作ったの?」
当然の質問に、当然の回答を返す。
「古代魔石“ブラックホール”の魔力的特徴を学習させた
説明した頃には、
直後、右目に貼りつけたコンタクトレンズに、すべての情報が表示される。
状況に着いて行けず唖然とする二人を背景に、遂に古代魔石“ブラックホール”の個数と場所をラーニングした。
「個数は13。全ての場所を把握。一番
「……分かったんだね」
その事実だけは、半信半疑ながらロベリア達にも理解できることだった。
「けど……6分で全部停止しきれるものなの?」
「多分魔術師達は間に合わないわね……」
「予測修正なし」
『Type GUN』
クオリアの右手に、銃を象るフォトンウェポンが出現した。
「これより全ての古代魔石“ブラックホール”に、最適解の魔力を乗せた
アクセス第三階層。
クオリアは右手のフォトンウェポンを、青空に向ける。
しかし、その銃口は突き抜けた天を向くだけで、ロベリアとスピリトには場所の分からない古代魔石に向けられたようには見えない。
「ど、どこ向けてんの?」
天を仰ぐクオリアに聞いてしまったスピリトだったが、ロベリアはアロウズとの決闘を思い浮かべていた。
「そういえば……アロウズの魔術を迎撃した時、光線が途中から折れ曲がっていたわよね。だから間に障害物を挟んでも、問題ないって感じ?」
「肯定。探知の際、障害物や人間についてもラーニングした。
クオリアの狙撃は、その先に対象がいなくても問題はない。
「って、てか狙撃するって……その光線で撃っても、作動しないの!?」
「肯定。このフォトンウェポンは、対象の作動を停止を実行する魔力を
そしてクオリアが、空目掛けてトリガーを引く。
13発、連続。
白光は太陽目掛けて羽ばたき、揺れる稲穂のように自由に廻り、13の奇跡として天空に散らばっていく。
内一発が、クオリア達の足元に突き刺さる。
「!?」
声を上げる間もない。
クオリアだけが、その軌跡を眼で追っていた。
「あっ、ブラックホールは!?」
はっとして、姉妹二人が古代魔石“ブラックホール”を見る。
一見変化はない。だが、魔石が発していた光も通さぬ黒い
ロベリアが間近で見て、確信して頷く。
「死んでるわ。完全に魔石として無力化されてる……」
「予測修正無し。
クオリアは続けて、
右目のコンタクトレンズに、結果が展開される。
「古代魔石“ブラックホール”の検索結果、数を0と確認。脅威の排除を確認」
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