第40話 人工知能、獣人達の目論見に気付く
獣人達の勢いが削がれてきている。
クオリアはその理由を認識した。駆け付けた騎士達が獣人達を制圧し始めたのだ。
だが今度は、騎士達が戦意を喪失した獣人を血祭りに上げている。
「ま、待て、俺が悪かった、待――」
尻餅をついて助けを請う獣人目掛けて、振り下ろされる刃が煌めく。
騎士に、躊躇いは無かった。
『Type SWORD』
反対方向から、クオリアがフォトンウェポンで一閃する。
千切れた刃は、虚しく地面で反響するだけだった。
柄のみとなった剣を捨て、訝しげに騎士が睨む。
「なんだ? 人間のようだが、お前もこいつら“蒼天党”の仲間か?」
「エラー。蒼天党は小さな獣人のコミュニティで登録されている」
昨日アイナから聞いた内容との食い違いを、淡々と口にする。
「何の話をしている? こいつらは1年前から危険視されていた獣人テロ集団だ……遂に王都を狙ってきやがったな」
尻餅をついて惚けている獣人に、今度は
「ひぃっ!?」
発動直前、クオリアが腕を押し退けたことによって、発動した鎌鼬は発射口が逸れる形となり、すぐ近くの壁に三日月を彫った。
もしクオリアが妨害しなければ、鎌鼬は壁ではなく獣人を切り刻んでいただろう。
「排除せずとも、無力化は可能と認識する。生命活動を停止させる必要は無い。あなたがやっている事は、リスクへの過剰対応と判断する」
苛つく表情が騎士から読み取れた。
「だからお前は何なんだ。これ以上はお前も敵と見なすぞ」
「本個体は守衛騎士団“ハローワールド”の一員、クオリア。役割は“美味しい”を創る事」
一歩、騎士がすり足で後退る。
「ハローワールドのクオリア? お前さては、
「――敵と言えど、不必要に殺してはいかん」
騎士の後ろから、鋼鉄が多数軋む音。
紅の甲冑を着用した騎士の集団が、付近に集結する。
「人間認識。人間認識」
「ウッドホース総団長……!」
一際堅牢な深紅を纏った長髪の壮年が、クオリアと向かい合った。
「私はウッドホース。トロイの総団長だ……君はクオリア君ではないかな?」
部下達が獣人を取り押さえるのを横目に、ウッドホースはクオリアに近づく。
「肯定。本個体は守衛騎士団“ハローワールド”の一員、クオリア」
「やはりそうか。昨日は申し訳なかった」
跪くウッドホース。
「トロイの総団長として、第五師団の悪行を直接詫びねばと思っていた。エルヴィンはあの後、トロイから追放した。この程度で許してくれとは、少し虫のいい話だとは思っているが……」
「あなたは、誤っていない。スピリトに不利益な振る舞いをしたのは、エルヴィンと認識する」
「いや。彼の監督責任は私にある。まだまだトロイの総団長に就いて歴は浅いがね」
ウッドホースへ、辺りに隠れていた人間達から歓声が上がっていた。
「ウッドホース様だ……!」
「やっと来てくれた! 俺達の救世主!」
昨日、トロイの総団長であるウッドホースについて情報はロベリアからインプット済みだ。
腐敗していても大手の騎士団としての影響力も見過ごせないトロイ。
その総団長として臣民からの信頼の厚い騎士が就任した。
それが深紅の騎士、ウッドホースである。
「クオリア君。君は恐らく遊撃部隊の役割を果たしてくれている。だとしたらこの辺りはトロイが制圧した……君は別の所で騎士達を助けてくれないか?」
「提案を受諾する」
「蒼天党の頭であるリーベのいるところが、特に苦戦しているようだ。とはいえ、あの“魔術人形”部隊がその戦地に当たった今、状況は逆転しているかもしれないがな……」
魔術人形。
この王都に来る馬車で、ロベリアからその単語を耳にしていた。
だがその詳細はインプットされていない。
「説明を要請する。“魔術人形”とは何か」
「おや。魔術人形を知らないか。まあ、王都の外から来たのであれば無理もない……最近まで、製造は秘中の秘だったからな」
まるで破壊兵器でも造っていたかのような物言いだった。
例えば、自分達を滅ぼすかもしれない汎用型人工知能が搭載された自律兵器の開発プロジェクトが公開された時に、今のウッドホースの様な話し方になるのだろう。
「百聞は一見に如かず。私がくどくど説くよりも、実際に見に行った方が良い。
「総団長、そろそろ……」
「あい分かった……クオリア君。健闘を祈る」
そう言い残して去ったウッドホースを見送る事無く、クオリアも逆方向へ走り抜ける。
“魔術人形”を重要度の高い存在として認識した。
人、獣人、魔物、更に新しいジャンルの“魔術人形”。
まずは魔術人形の情報を得る為にも、ウッドホースが示した西へ向かう。
だが。
その魔術人形すら軽く見えるリスクを見つけた結果、クオリアの演算が変更された。
「状況分析」
きっかけは、一つの疑問だった。
先程から爆発や戦闘音がけたたましいのは下層ばかりだ。
黒煙もあちこちから上がっている。
だが、獣人達が待遇の不満からこのような行動を起こしているのだとすれば、狙うべきは貴族が住む上層の筈だ。
ヒエラルキーの知識に乏しいクオリアでも、その推定には行き着く。
しかし、上層に戦闘の形跡は見られない。あまりに下層ばかりを集中攻撃しすぎている。
クオリアはじっと、上層を見つめる。
上層の情報を、これまで取得していない。
遠すぎて、人間の眼では鮮明には映らない。
だが僅かな情報でも、今は参考になる。
そして、クオリアは見つけた。
ハリボテの平穏に塗れた、無視できないとある獣人の姿を。
「
クオリアは上層へ向かった。
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