第13話 人工知能、名家の跡継ぎを否定する②
執務室に現れたアカシア王国第二王女に、全員の目が釘付けになる。
「人間認識。アイナの発言から、ロベリアと判断」
「貴様……! ロベリア王女になんという口の利き方を!」
敬語や階級の概念が無いクオリアの発言に、ワナクライが青ざめる。
だがロベリアは全く意に介さない。それどころか、堪えきれず笑いだしている。
「喋り方が新鮮で独特ぅ……! こりゃ本当に別世界から来た説あるね。ますます気に入っちゃうねー」
「ろ、ロベリア王女……そのような寛大な御言葉、サンドボックス家としてこの上なく喜ばしい事と存じます」
「え? でもサンドボックスさんのところとは何も関係なくない? 今、勘当したんでしょ」
ぴしゃりと戸を閉じる物言いに、ワナクライが凍り付く。
「なら私がクオリア君を引き取ったからって、サンドボックス家にどうこうある訳じゃないでしょ?」
「いえいえ、先程のはパフォーマンスですよ……クオリアは立派な我がサンドボックス家の一員でございます。そうだろう? クオリア」
見苦しく、取り繕う。
だが、そんな忖度を人工知能が推し量れる訳も無かった。
「否定。先程あなたからは、サンドボックス家の系統から外れるように指示があった」
「はいはい、このロベリアとそこにいるメイドさんが証人でーす」
ねっ、ロベリアがアイナに目配せをする。
混乱していたアイナだったが、最後は意志を持って大きく首肯した。
「そもそもここに来た理由は、アロウズの親であるワナクライさんに一言言いたくてなんですよねー」
「一言……?」
「正直アロウズ、気持ち悪いです。困ってます。迷惑です」
反論のしようもない、ストレートな拒絶だった。
「王都でも散々付き纏われて、もう来ないでと言ってるのにアプローチしてくるし! 何かアロウズとの縁談話まであるとか嘘広められてるし! 向こうは勝手に彼氏面して振舞ってるし! 再三注意しても聞く耳持たないんで、父親であるあなたに言いに来たって訳」
「な……な……」
眼を白黒させて椅子に座り込むワナクライ。
ロベリアから告げられた驚愕の事実に、最早言葉すら出ない。
「ま、クオリア君にやられてアロウズは再起不能だし。更にクオリア君なんて逸材も見つかったし。こっちとしてはプラスに働いたからいいですけどね」
「……」
「じゃ、クオリア君。場所変えてで話だけでもさせてもらえるかな」
クオリアはワナクライとロベリアを交互に見て、最後にはロベリアの方に落ち着いた。
「ロベリア、あなたの提案を受諾する。だがアロウズの立場になる事は拒絶する」
「アロウズの立場……ああ、誰も娶ってくださいなんて言わないよ。ただ、“笑顔”創りたいんでしょ? この家にいるよりは可能性のある話、出来るよ」
ロベリアに続くクオリアの背中に、ワナクライが最後の力を振り絞って手を伸ばす。
「待ってくれクオリア……後生だ。ロベリア王女に取り入れば、この家は歴史に残る名家になる……頼む、この家に留まってくれるだけでいいんだ、頼む……謝るから」
扉の向こうに消える前に、クオリアは縋るようなワナクライの眼差しを見た。
そして一言だけ返すのだった。
「あなたは、誤っている」
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