第11話 人工知能、初めての決闘②

「クオリアよ、もう一度言ってみろ。俺に必然的に勝てる、だと?」


 紅い鳥の数羽が急降下を始める。

 クオリアの無防備な頭を目掛けて。

 直撃すれば、大火傷では済まない爆炎に飲み込まれる。

 

「魔術も使えないお前が!! 俺の“レッドバード”に!! どう抗うのか!! 見せてみろよ出来損ないぃ!!」


 飛び出んぐらいに目を見開き、最高潮に達した興奮を大声に載せるアロウズだったが、おかしなことに気付いて上を見上げる。

 号令をかけた筈の“レッドバード”がいつまでも落ちてこない。自分の魔術なのにいう事を聞かない。

 否――次から次へと風穴が空いて、消滅している。

 

「えっ」


 一条の光。

 それが鳥達の中心を貫くと、炎が形を崩して消えていく。

 

 その光は、クオリアが掲げた“フォトンウェポン”の銃口から連続で放たれていた。

 

 たん、たんと。

 淡々と。

 最適解通りに、光の直線で一つずつ破壊していく。

 

 会場と一緒にどよめきながら、アロウズが呟く。

 

「なん、だ……それ」


 クオリアは返事せず、無駄弾無しで鳥達を撃ち落としていた。

 40、30、20、10と――そこまで減ってようやく異常事態である事にアロウズは気づいた。

 

「く、そ、がああああ!?」


 魔術を操る右手を掲げて、レッドバードを散開させた。

 驚愕。混乱。突然の狩る側と狩られる側の逆転を前にして、蒼白になり始めたアロウズの顔に、その2つの感情が濁り始める。

 一方、クオリアの見上げる瞳に、変化はない。


「予測修正無し」

 

 クオリアの光線に変化が現れた。

 直線軌道の荷電粒子ビームが――“ぐにゃり”と折れ曲がったのだ。

 直線から、曲線への変貌。

 結果、かわした筈の鳥はその焔を貫かれていく。


「……馬鹿な」

 

 大空を覆っていた緋色の鳥はいなくなった。

 だがまだ一羽だけ、クオリアの死角から滑空してくる。

 炎の翼を纏い、疾風迅雷の速度で突き進む。

 

 アロウズはにやりと口元を緩めた。

 だがすぐに、凍り付いた。


 


「状況分析。想定内」

 

 まったく見ていない。

 だが算出された最適解通りに、ノールックで荷電粒子ビームを直撃せしめた。

 そして、“レッドバード”は広場から綺麗に消え去った。

 

「ひぃっ……!?」


 遂にクオリアの視線を受けたアロウズは、慄く。

 荷電粒子ビームが自分の心臓を貫く光景を思い浮かべたのだ。

 だがクオリアはアロウズへ“フォトンウェポン”を向ける事をしない。

 

荷電粒子ビームではあなたを排除する不確定性がある。無力化の手段としては誤っている」

「な……めやがってえええええ!!」


 剣に魔術で焔を宿しながら突進してくる。ビッグボアさながらだ。

 しかし炎熱の魔術を帯びたアロウズの刃は、レッドバードよりも高い殺傷力と威力が籠もっているのは間違いない。

 そう評価した上で、淡々と“フォトンウェポン”を換装する。

 

『Type SWORD』


 銃口は柄となり、青白い細刃が伸びる。

 荷電粒子ビームで構成された、焼き切る為の剣。

 皮肉にも、アロウズの炎の剣と系統は一緒だった。


「だらあああああああああああああああああああ!!」

 

 炎の剣と、荷電粒子の剣が交差する。

 鍔迫り合いは無かった。

 炎ごと、アロウズの刃が空を飛んでいた。

 

「そ、んな……」


 眼前の状況に理解が及ばない、唖然とした表情。

 根元が蕩けた銀の刃が、足元に突き刺さる瞬間までずっと目で追ってしまっていた。


 クオリアがアロウズの横に佇む。

 アロウズは、気づく事さえ出来なかった。


「あが」

 

 そして、後は昨日と同じだった。

 結局、必然の敗北へ回帰した。

 違うのは、フォトンウェポンの筒の部分でアロウズの顎を撃ち抜いたことくらい。

 

「エネミーダウン。脅威の無力化を確認」


 膝立ちになって、また意識を喪失したアロウズを確認する。

 生命活動が十全に働いている自分自身クオリアを認識する。

 大番狂わせにどよめく観衆の中に、ほっと胸をなで下ろす“美味しい”表情をしていたアイナを視認する。

 

「タスク完了――“美味しい”表情を検出」


 クオリアもまた、美味しい表情笑顔になっていた。

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