第9話 人工知能、兄から決闘を申し込まれる
朝目覚めると、街は大盛況だった。
窓から外を眺めると、喧噪溢れる雑踏だった。
「人間認識。人間認識。未知の人間を多数確認」
「クオリア様、おはようございます! 大変です、ロベリア様が今日お越しになるみたいです!」
慌てて入ってきたアイナが、その焦燥の理由を語る。
「アカシア王国の第二王女ですよ!? なのにどうして私達には今日まで伝わっていないの……!?」
第二王女が
ここからは
「説明を要請する。何故
「……きっと、アロウズ様や“御父上”がクオリア様を隠す為に、ですよ。アロウズ様がロベリア様と懇意になっているという噂も聞きますから……王家に取り入る為に、クオリア様がいると評価が下がる、そんな風に邪魔者扱いしているんですよ」
「説明を要請する。“御父上”とは何か」
「あなたの御父上、ワナクライ様の事です。ロベリア様と共に遠征から戻ってこられたそうなのです!」
アロウズが作為的に情報遮断をしていたのだ。
アロウズだけではない。この家の当主である、ワナクライ=サンドボックス侯爵も関与している。
クオリアとは遠征の為面識はなかったが、アロウズ同様クオリアを酷く疎んじている事は認識している。
王国の第二王女を娶る為、手段を選ばないくらいには疎んじている。
一族の汚点であるクオリアを隠す気だ。
当然、クオリアと親しいアイナも諸共なのだろう。
「――別に? ちゃんと伝えたつもりだったぜ? あれ? 伝わってなかったのかなぁ?」
馬鹿にした声が、部屋の入口からあった。
昨日玄関で醜く昏倒したアロウズだった。
勿論それは忘れていないのか、忌々しそうにクオリアを睨みつける。
「けど安心しろよ。父上に言って、ちゃんとお前の出番も用意してあるから」
「説明を要請する。出番とは何か」
「今日はロベリア様の為、街を挙げての祭りを催している。その余興として決闘を執り行うつもりだ」
「決闘……まさか……!」
アイナがクオリアとアロウズを交互に見る。
その意味を表すかのように、アロウズが上機嫌で答え合わせをするのだった。
「クオリア。貴様に決闘を、俺から申し込んでおいた。手続き諸々はもう済ませておいたからな」
「説明を要請する。決闘とは何か」
「要は一対一で、決まった時間に号令と共に戦いを始めるという事だ。安心しろ、ロベリア様に醜いものは見せたくない。出来る限り痛めつけはしないようにしてやるよ……けれど」
晴れやかな表情から一転。
湿ったどす黒い顔色に変わる。眼付きだけが、昂ったままだ。続く声も、怨嗟が籠ってトーンが低い。
「昨日の結果が偶然という不合理だった事を、骨の髄にまで分からせてやる」
「否定。あれは最適解通りの、必然だった」
歯軋りの音が聞こえた。
アイナの猫耳がびくりと震える。
「時間は追って伝える、逃げるなよ。逃げればお前達二人、決闘から逃げた腰抜けと、それに付き従う獣人として永遠に晒し者だ」
と言い残して、アロウズの姿は扉の向こうに消えていった。
開きっぱなしの扉を眺めていたクオリアの隣からは、少女の震える吐息が聞こえた。
「に、逃げましょう……!」
やっと振り絞った言葉と同時に掴んできたアイナの手は、宇宙に投げ出されたかのように冷え切っていた。
この家から逃がそうと、必死にクオリアの手を引いてくる。
「クオリア様がアロウズ様なんかに負ける訳がない。私はそう信じています……でも、心配なんです。決闘には事故死がつきもの……もし命を失ったら……命を失う事だけは、取り返しがつかないから……」
「……」
「生きてれば、何とかなりますから……路上での生き方なんて、私が教えますから……」
もし人工知能の頃だったら、アイナの言う事を跳ね除けていたはずだ。
腰抜け呼ばわりに、どんなリスクがあるというのかと合理的に考えた筈だ。
豪邸と路上の区分けなど、そもそもクオリアには存在しないと言えた筈だ。
命を失う事に、機能が停止する事に意味は無いと拒絶できた筈だ。
しかし、縋ってくるアイナの眼を振り払う事が、何故か出来なかった。
瞼から溢れる滂沱を、無視する事が出来なかった。
「もう……死なないで」
アイナは、クオリアの自殺を見ている。だからこそ、クオリアの危険に過敏になってしまう。
その演繹が、クオリアの演算機能で行われた訳ではない。
だけど、この涙をどうにかしなければならない。それが自分の責務だと判定した。
ただただ、泣いてほしくなかった。
「理解を要請する。
涙を拭った掌から、5Dプリントで“フォトンウェポン”を取り出す。
自分が死なない事の証拠を見せつける為に、アイナの不安が拭えるように、5Dプリントについて説明する。
「これがその、
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