第3話

「気化燃料をご存じですか?ガソリンのように一度気化してから燃焼するもののことを表します。この部屋の爆発も似たようなものでしょう。何かが充満した後、引火、爆発です。そして、一度爆発すると真空になり、真空になると真空を埋めるように空気が戻ってきます。その作用で、この謎の室内にあるはずのない物体、スプリンクラーの破片がやってきたのでしょう。以上が今回の事件の真相であり、他殺ではなく事故だったということです」

「さすがジェームス松田さんだ」


 全員がジェームス松田を見ていた。瞬きを忘れて、呼吸もわすれて。

 ジェームス松田はそのまま部屋を出て、愛車に乗って帰っていた。

 エンジンの残音が全員の耳に残った。路上をすべるように走ってい行くジェームス松田のスポーツカーのライトが見えなくなるまで、誰一人部屋から出なかった。


「スプリンクラーが事故だったなんて、誰一人気が付きませんでしたよね」

 松井が急に話し出した。

「そ、そうですよね」

 あわてて松木が賛同した。


 湿った沈黙が部屋を埋めそうになった。


「それに、気化燃料爆発が実際起こるなんて想像できませんでしたよ」

 話を終わらせないように、無理やり松本が話を始めた。

「一体どれくらいの量が気化したんでしょうね」

 松坂が窓側で外を眺めながら独り言のように言った。


 遠くの方で何かが光り、数秒遅れて爆発音が聞こえた。松坂は窓から振り返り一人部屋の出口へ向かった。部屋を出るときに、また独り言のように

「お疲れさまでした」

 と、会釈程度に頭を下げ自室に戻っていった。それが合図のように全員が部屋を後にした。


 次の日の朝、N県国道山中で自動車の爆発事故がり、自動車の持ち主、松田むすじさんの死亡が確認された。という、ニュースが流れた。


「肩の荷が下りました」

 松木がトーストにジャムをたっぷり塗りながら、テレビから目をそらした。

「松木さんそんなにジャムをつけたら糖尿病になってしまいますよ」

 松井が更に多くジャムをつけながら昨夜の光った方向を眺め、トーストを口に運んだ。

 「それにしても、松坂さん遅いですね」

 松本は、松、松、松、うるせぇ!と、思いながら適当に話を合わせた。


 松本は松坂が朝食を食べに来ないことを知っていた。それでも、松木と松井に話を合わせた。なぜなら、次はこの2名がいなくなる番だからだった。


 

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