第10話~~狂気の追跡者~~
不気味な鳥の
「……さっきの話だけれど、本気でそう考えてるのかい?」
「犬、もしくはその飼い主が犯人説ですか?」
「そうだね、キミにしては中々面白い冗談だとは思ったけど」
「でも、彼の話を聞く限りではその可能性が一番高いと思いますよ」
「彼の話が全て真実ならね、でも本人も言ってた通り信憑性はかなり薄そうだよ」
「ひゅい!?」
アイヴィーの肩がビクッと跳ねあがる。それから周囲をきょろきょろと見渡したかと思うと、何もない事を確認して安心したのか胸を撫でおろしている。不気味な夜の雰囲気にすっかり飲まれている彼女だが、僕の問いには健気にも答えてくれる。
「可能性は0では無いですからね。ならば、犯人が犬だという事を否定する証拠が必要です。ですから、それを詳しく調べてみる必要があるんです」
彼女の口調は
「……まぁ、キミの勘には目を見張る物があるからね。試してみるのも悪くはなさそうだ、ともかく、今度トーマス氏と例の場所に……」
悪寒が走る。
足首を
背後に何かいる……その異様な気配は確かに感じるのだが、
「……ねぇ、なんだか
「き、奇遇ですね……わ、私もなんだかそん、そんな気がするん……で、ですよね」
ベタ……ベタ……ベタ……ベタ……
僕たちの会話を遮るように、まるで粘土が地面に叩きつけられるような粘着性のある音が近づいて来る。これは追跡者の足音なのか? そんな疑問が浮かぶが、果たしてこんな音を出すものだろうか。
思考の整理が追いつかないうちに、更に激しい腐敗臭まで漂ってくる。辺り一帯に臓器でもばら撒かれたかのような生臭く不快な臭いだ。
「この臭い……どこかで……」
アイヴィーが絞り出すように震える声で呟くが、その意味について今は考えている時間などない。兎に角、その音の正体を確かめて見なければ、その一心で僕は気力を振り絞り背後を振り返った。
人気の無い、寂しい通りが古い街灯の淡い灯りで照らされている。その灯りが届かない暗闇の向こう、その先へ目を凝らしてみるとうっすらと影が浮かび上がってくる。それは、音と臭気が近づくにつれて滲みだすようにこの世界に姿を現し始める。
(……人間じゃないのか?)
酷くゆっくり近づいて来るその朧げな輪郭は不格好な物で、背は僕の腰下までしか無い。いや、背が低いのでは無い、そいつは四足歩行で近づいてきているのだ。
「い、犬でしょうか……?」
いつの間にかアイヴィーも振り返っていたのか、そう呟く。彼女の言う通りにその追跡者の朧げな輪郭は犬に近いものだ。しかし、仮に野犬だとしてこのような激しい臭気を放つものだろうか。はたまた、これほどまでに不格好な足音を立てるのだろうか。様々な疑問が止めどなく浮かび上がってくる。
僕は静かに
「アンダーソン君!」
「くそっ!!」
アイヴィーが叫ぶように僕の名前を呼んだ時には、既に追跡者は闇の中から飛び出し僕らに迫ろうとしていた。急に走り出したそいつは街灯の灯りの下にその姿を現し、醜悪なる正体を僕たちに見せつけた。
暗闇の中では犬のように思えた姿とは打って変わり、灯りに照らされたそれは犬とは程遠い異形を成していたのだ。全身は焼け
その、禍々しい狂気の姿を目にした僕たちは悲鳴も上げる事ができず、ただその異形に目を奪われていた。
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