第7話~~証言者~~
太陽が地上を照らす午前9時、
前回と違って、アイヴィーが口を出してこなかった為、そのままオリビア嬢宅まで車を走らせる。
結論として、なんの収穫も得る事は出来なかった。オリビア嬢の同居人である男性は不在であり、フィリップス氏の許可を得て室内を調べてはみたが、特にこれといった発見は出来なかった。
「フィリップスさん曰く、室内は当時のままにしてあるそうですが、だとすると今回の事件に置いて、オリビアさんの自宅はそんなに関りは無さそうですね」
これ以上の部屋の調査に旨みが無いと判断した僕たちは、次の調査として市内の人々に聞き込みを行う事にした。アイヴィーは、「ささ、これこそ探偵の腕前が試される時ですよ。巧みな話術で人々から情報を聞きだすのです」などと息巻いていたが、実際に応対するのは僕に任せるとの事だ。
それから、数日を掛けて聞き込み調査を行った。結果的にほぼ全てが徒労に終わった訳だが、その一部の聞き込みでは気になる情報を得る事が出来た。
まず第一には、マンションの管理人であるジム老人だ。
「オリビアちゃんなぁ……あの娘は良い子だよ。派手好きで勘違いされやすいかもしれないが、ちゃんと勉強はしているし、儂ら年寄り連中の面倒を見てくれる事もあった……多少、夜遊び好きなきらいがあったがな」
フォッフォッと
そんな彼の話にあった気になる点とは、オリビア嬢が、夜遅くまで外出している事が
第二は、マンション近辺に活動拠点を構えるNPO団体【命の泉】の職員である、妙齢の女性シンシア氏だ。彼女の銀色の長髪は流れるように美しく。彼女自身も穏やかで気品のある美しい女性だった。彼女らは街の環境保全活動や、生活支援、様々な悩みの相談など幅広く活動する団体で、前科者の更生などにも一役買っていて警察からの信頼も厚い。今回の連続殺人事件に置いても有志らが自警団を結成し、夜間の警備への協力を行っている。
「そうですね……オリビアちゃんは何度かこちらにお見えになった事があって、私も彼女の相談に乗らせて頂いた事もあります。普段は明るい彼女ですが、やはり人には明かせない悩みもあったようです」
気になる点は、彼女の言葉にもあるように、オリビア嬢が抱えていたという悩みだ。それが今回の失踪に関係していると考えるのは至極当然の事だ。シンシア氏は人間関係の事、としか答えなかったが、これに関しては更に詳しく聞く必要がありそうだ。
そして最後は、街の中心から離れた、やはり
そんな教会の、
「連日の殺人事件を、神の裁きだのと触れ周っている連中がおるのです。罪深い人間たちへの戒めの為、天罰を下しているのだと。実に嘆かわしい事です、こんなのは、ただ残虐な人間が引き起こしている他ありません。それを、神の天罰だの、穢れた世界の世直しだのと狂喜する連中の気がしれません」
彼は、顔を
ともあれ、彼の語った連続殺人鬼を神と崇める集団。一種のカルト集団についても調査の必要があるのは明白だ。
事件の真相に辿り着くには、まだまだ心許なくはあるが、調査が進展したのは間違いない筈だ。その事に内心、胸を弾ませながら僕は教会から丘の下の駐車場へ下る道をアイヴィーと並んで歩いていた。既に陽は沈み、空には星々が瞬き、月が顔を覗かせていた。青白く、不気味なまでに美しい月だ。
「さて、情報もそこそこに集まってきましたね。しかし、しかしですよアンダーソン君。実はもう一つ有益な情報があるのです。いや~コツコツと聞き込みをしてきた甲斐があったというものです」
「へぇ? キミも聞き込み出来たんだ。てっきり僕以外とは口はきけないものとばかり思ってたよ」
茶化してみるとアイヴィーは案の定、キッとこちらを睨みつけてきた。相変わらず迫力が無い。
「し、失礼な……! 探偵なんですから、これぐらい出来て当然に決まっているじゃないですか! キミに任せる事が多いのはほら、あれですよ! あれ! 日頃いろいろ考える事があ……」
「ギャア!!」
突然、耳をつんざくような何かの声が聞こえたかと思うと、それと同時に、バキバキバキと乾いた音が鳴り響く。その瞬間、目の前に黒い影が飛び出してきた。
アイヴィーが素っ頓狂な悲鳴を上げると同時に、僕の背後に隠れるように回り込む。僕も何が起こったのか分からぬままに身構える。件の殺人鬼と鉢合わせしてしまったのだろうか、そんな考えが脳裏を過る。
「ギャアギャアギャア……」
黒い影は、バサバサと翼を動かし、星の瞬く空へと飛びあがっていった。なんてことはない、道の周囲に等間隔で植えられていた背の低い樹木の樹冠から、鴉が飛び出してきたのだ。
僕は、あまりにも馬鹿らしい真相になんだか恥ずかしくなり、頭を掻いた。そんな僕の背後から、アイヴィーが周囲を警戒しながら出てくる。
「もぉ~なんですかぁ……驚かせないでくださいよ~心臓止まりかけましたよほんと……もう、こんなに暗いんですから大人しくジッとしててくださいよ……」
彼女は、僕のすぐ隣で鴉が飛び去った方角を見つめていた。本来、鴉は暗くなると活動をやめて、ジッと安全な場所で大人しくしているものなのだが。連日の事件で張り詰めた街の雰囲気に影響されているのだろうか。
空を見つめるアイヴィーの横顔を見ていると、彼女が不意に振り向き、目が合った。その、なんとも拍子抜けな顛末に、僕たちは思わず笑いが零れた。
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