第18話 信用取引ができるようになっても

信用取引ができるようになっても


 信用取引とは、証券会社に信用口座を開設してそこに担保を預けると、その金額の約3倍の資金で売買できるようになる「レバレッジ取引」のことです。

 たとえば300万円を預け入れると、1,000万円ぶん株式を買ったり空売りしたりできます。


 しかし私は「レバレッジ取引」と「空売り」はオススメしません。


 なぜなら損害が発生したときに手のつけようがなくなるからです。


 たとえば信用買いで1,000万円ぶんの株式を購入した。しかし株価が2割減になってしまったとします。

 すると2割減は200万円の損失ですから、評価額が800万円となるのです。ここまでは当たり前に計算できますよね。


 ですが、ここからが「レバレッジ取引」の怖いところです。

 融資してもらったのは1,000万円ですが、評価額が減少すると損失分は信用口座に預け入れた金額から「直接」引かれます。

 つまり200万円の損失を出したら、預け入れた担保が一気に100万円まで目減りするのです。

 しかし融資した資金は1,000万円ですから、最低担保率次第で足りない担保を補填しなければならなくなります。


 多くの信用口座の最低担保率は20%か25%です。仮に25%だとすると、1,000万円の25%である250万円を担保が切ったら、「ショウ」(追加証拠金)が発生します。

 今回の例では200万円の損失を出したので、信用口座の担保は100万円になります。そして最低担保が250万円ですから差額の「150万円」を信用口座へ期限内に補填しないかぎり、信用取引が継続できなくなり信用取引で得た株式を強制決済されてしまいます。

 しかし150万円は、信用口座に預け入れた全額300万円の実に半分に相当するのです。こんな「追い証」をポンと耳を揃えて払えるような方は、最初から信用口座に450万円を預け入れたほうがましではないでしょうか。


 このため信用取引で「レバレッジ取引」はオススメできません。

 確かに買いたい銘柄が今動かせる資金の3倍程度であれば、「レバレッジをかける」だけで保有できるのですから、まさに助け舟です。

 しかし「レバレッジ」は「全力買い」と大差ありません。確実に儲かるのなら使ってもよいのですが、相場に絶対はないのです。

 上がると思って買ったら下がる。「相場あるある」です。そのとき「レバレッジをかけて」いると「全力買い」のリスク同様、逆転の一手「分散」を繰り出す余裕がありません。



 では「からり」はどうでしょうか。

 「空売り」とは、証券会社を通じて、ある銘柄の株式を一時借りて市場で売ります。「からがたでの売り」なので「空売り」と呼ばれます。そして株価が下がったところで借りた株式を「買い戻す」のです。


 つまり「株価が下がる」と見込んだら「空売り」をすれば下がった値幅ぶんが利益となります。


 株式はずっと上がり続けるわけではありません。

 上がったら下がる、下がったら上がるを繰り返してギザギザの波形を描きながら日々のローソク足が推移していきます。


 もし「買い」だけで株式取引を行なっていると、株価が上がるときにしかエントリーできません。

 しかし「空売り」が使えると、株価が下がるときにもエントリーできるのです。


 こう聞くと「空売りを使えば往復で利益が出るから儲けも2倍」と皮算用する方が多い。

 しかししょせん皮算用にすぎません。


 株価が下がれば確かに利益は出ます。しかし上がったらどうでしょうか。

 仮に株価1,000円で「空売り」をして、株価が1,050円になったとしたら、△50円の損です。


 本当に怖いのはここから。

 買った場合、倒産して株価が0円つまり紙くずになっても、あなたは投資資金をすべて失うだけで済みます。

 しかし空売りをして株価が2倍、5倍、10倍と膨らんだらどうでしょうか。

 たとえば100万円の空売りをして2倍になって「損切り」したら、あなたは「200万円-100万円」で100万円多く費やして信用口座から借りた株式を返さなければなりません。


 つまり元手の100万円をすべて失ったのみならず、100万円の借金を背負わなければならないのです。5倍なら400万円の、10倍なら900万円の借金となります。


 それなら株価が売値より下がるまで返済を後らせればよいのでは。そう思いますよね。

 しかし「制度信用」といって東京証券取引所の制度(ルール)で行なう「空売り」は「半年以内に返済しなければならない」のです。つまり「時限爆弾」を抱えてしまいます。


 証券会社が独自に行なっている「一般信用」の場合、証券会社にもよりますが「無期限」のものもあります。その代わり借りた株式には「高い金利」が発生します。「空売り」した株式が売値より下がるまで待っていると、金利の支払いで損失が生じるのです。


 つまり「空売り」はよほど条件が整わないかぎり行なうべきではありません。


 「空売り」をしてよい条件は、全体相場が下げている、「空売り」したい銘柄が下降トレンドにある、規則的に上昇と下降を繰り返している、のがベストです。


 たとえば東日本大震災、リーマン・ショック、今回のコロナ・ショックのように、全体相場が急落するだろうというときです。これなら多くの銘柄は「空売り」を仕掛けると面白いように急落していきます。

 しかし急落にも限度があるため、大底をつける前に「買い戻し」したほうがよいですね。


 また銘柄はどれでもよいわけではありません。個別のチャートを見て「下降トレンド」に入っているのであれば、そのまま下落していく可能性が高いので、「空売り」を仕掛けても成功する確率は高まります。


 さらに、あるレンジで規則的に上昇と下降を繰り返している銘柄は、「いつ下がる」か明確です。なので下で買って上で売る。上で「空売り」して下で「買い戻す」を繰り返せば労せずして利益が積み上がります。


 株式取引に絶対はありません。

 下がると思っていた銘柄が上がるなど日常茶飯です。

 だから調子に乗って「空売り」をし続けると、いつか大きな損失を被ります。

 だから「空売り」はオススメできないのです。



 ではなぜ「信用取引」について書いたのか。

 実は「信用取引」をせず「現物取引」だけだと、とくにデイトレードやスキャルピングでは効率がきわめて悪くなるからです。


 「現物取引」とは、証券会社に預け入れた現金を使って直接株式を購入する、それを売却して株式を手放す取引を指します。

 そして現在「現物取引」は同一銘柄について一日に「買って、売って、買う」までは許されています。しかしそれをさらに「売れない」のです。


 もしデイトレードやスキャルピングをするのなら、「現物取引」だと同一銘柄は「1,000円で買って、1,050円で売って、1,000円で買う」まではできます。しかし、たとえ1,100円まで急騰しても「売れない」のです。


 しかし現在の「信用取引」では同一銘柄で資金を何回転もさせられます。つまり買って、売って、買って、売って、……が一日中何度でも行なえるのです。

 とくにデイトレードやスキャルピングで威力を発揮します。



 しかし注意点もあります。

 「信用取引」は「レバレッジ」をかけられるのですが、けっして元手以上の株を買ってはなりません。


 「信用買い」で説明しましたが、「レバレッジをかけれ」ば考えと逆の方向に動いただけで損失が飛躍的に拡大します。


 できれば信用口座に預け入れる額は証券口座に預け入れた資産の「10分の1」だけにしましょう。

 これは「現物取引」のリスクのままに「信用取引」を行なう戦術です。


 つまり「現物取引」の使い勝手とリスクでも、同一銘柄で資金を何回転もさせられます。

 たとえ「信用取引」で損が出ても、「現物取引」と同じ額しか資金は減りません。もちろん「空売り」を除いてですが。


 「現物取引」同様に3銘柄を手掛けたいなら証券口座から「10分の3」を信用口座に預け入れればよいのです。

 そして「信用取引」で損失が生じたら、証券口座から信用口座へ送金して補填しましょう。


 「信用取引」で退場する投資家が多いのは、その怖さがわかっていないからです。

 あくまで「現物取引のリスクでデイトレードやスキャルピングのために」用いるだけなら、何回転でも許されている「信用取引」を使うメリットはあります。


 「空売り」だけが「信用取引」ではないのです。

 もちろん「デイトレードやスキャルピング」のような一日に複数回売買しない方「スイングトレード」や「長期投資」で行きたい方は「信用取引」なんて使わないほうが身のためです。


 そのくらい「怖い」のが「信用取引」なのです。

 世の「空売り」「信用取引」の書籍はすべて「詐欺」と思ってもよいでしょう。

 リスク管理を厳密に行なうほど、「信用取引」のリスクの高さは際立ってきます。



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