第12話 多くのトレーダーが信用取引で破産する


 トレーダーが破産してしまう理由で最も多いのが「信用取引」です。


 信用取引とは、信用会社と契約を結んで証拠金を担保に預けて約3.33倍の金額を運用できる、資産が少ないトレーダーでも身の丈以上の売買ができる制度です。


 こう書くと難しいのですが、「100万円ぶんの株式を手掛けたければ、30%つまり30万円の証拠金を預ける必要がある」と憶えておきましょう。

 株式トレーダーにはとても有利に思えるレバレッジ(てこ)取引です。

 しかし株式トレーダーが市場から退場する最も大きな理由こそ、この「レバレッジ取引」なのです。


 実は「100万円ぶんの株式を手掛けたければ、30%つまり30万円の証拠金を預ける必要がある」がその原因なのです。



 まず「信用買い」について。

 「信用買い」は100万円ぶんの資金を融通してもらうために30万円の証拠金を預け入れます。

 そして株価が2倍になれば200万円となって戻ってくるのです。そこで売ったと仮定します。


 このとき信用会社から100万円を融資されているので100万円が信用会社へ戻されます。

 証拠金は30万円で変わらずなので確定した利益-融資額が実益となりますので+100万円が手に入るのです。

 資産が30万円しかないトレーダーにとってはなんと資産が3倍強に増えるのです。まさに一発逆転が狙える「夢のような」制度ですよね。


 しかしこれは「信用買い」の取引が必ず上昇するのが前提です。もし下降してしまったらとんでもない目に遭います。


 先ほどの取引で株価が半額になったら想像するだに恐ろしい事態が待っているのです。

 100万円ぶんの「信用買い」で株価が半値になってしまったら50万円になりますよね。

 △50万円の損失です。

 信用会社から30万円を担保に100万円を融資されたわけですから、株式が50万円になっても100万円を返さなければなりません。

 すると現在株式50万円から100万円引かれて△50万円になります。残りは証拠金から充当されますが、預け入れている証拠金は30万円です。つまり証拠金をすべて担保でとられてもまだ△20万円の不足となるのです。


 すると融資している信用会社は最低担保率を20%や25%に設定しているため、仮に20%だとして10万円を預け入れていないと信用取引を維持できません。

 ですが現在「証拠金」は△20万円です。そこから+10万円になるまで積み増さなければならないため、30万円の「追い証」が発生します。


 でもあなたの全資産が30万円だったとしたら、とても「追い証」は払えないですよね。

 払えなかったら信用取引している株式はすべて自動的に手仕舞われて、証拠金も全額没収。挙げ句は信用取引のブラックリストに一定期間載せられて「信用取引」ができなくなってしまいます。


 つまりあなたは30万円の資産から一転して30万円の借金を背負います。


 これが「信用取引」の恐ろしいところです。


 株式トレードの入門書では「信用取引」は怖くない、ような記述を多く見かけます。それが多くの破産者を生み出しているのです。

 「信用取引」は想定外の損失を出しやすい。まさに悪魔の取引です。



 もし「信用売り」をしていたらどうでしょうか。

 同じく100万円ぶんの「信用売り」をするために証拠金30万円を預け入れます。

 このとき株価が半値になったら買い戻し額は50万円ぶんです。

 100万円-50万円で、50万円の利益です。

 このときは株式をそのまま買い戻して返せばよいので、手取りは50万円のままです。30万円を元手にしているので1.66倍の利益となります。


 では2倍になってしまったらどうなるのか。

 株式の買い戻し額が200万円となり、△100万円の損失です。しかしここまで放置されるのはまずありません。

 先ほど述べたように「最低担保率」が25%か20%に設定されているため、20%と仮定すれば担保の30万円が株価の20%を下回った時点で「追い証」が発生します。

 つまり「空売り」した株式が150万円を超えたら「追い証」が発生するのです。

 このあたりは信用会社の「親切さ」を感じるかもしれません。

 まぁ本当に親切なら、株価が高くなったら即損切りしてもらいたいのですが、損切りはトレーダーの判断ですからね。信用会社は口も手も出せません。


 △100万円の損失は証拠金30万円が全力だと3.33倍の借金となってしまいます。

 「信用買い」のときと同様、手掛けているすべての「信用取引」株式を強制的に手仕舞われ、ブラックリストに載って一定期間「信用取引」ができなくなります。


 まぁ借金を抱えた時点で退場は必至ですから、あまり関係ありませんけどね。


 しかも「信用売り」の怖いところは、理論上「借金に上限がない」点です。

 「信用買い」は倒産するなどして株価が0円になっても、最大の損失は0円で止まります。

 しかし「信用売り」はその企業が成長し続けるかぎり、借金に限度がないのです。

 もし10倍に化けてしまったら、△900万円の損失です。資産が30万円しかなかったとしたら、なんと30倍の借金を背負います。


 だから「信用取引」ができるからといって「レバレッジ取引」は行なわないほうがよいのです。

 「レバレッジ」をかけてしまうから借金が生まれます。



 実は「信用取引」といえば「レバレッジ取引」と思われがちですが、それ以上に有利な取引ができるのです。


 「融資された資金を同じ銘柄で一日に何回も投資に回せる」利点があります。


 たとえば「現物買い」では「買って」「売って」「再び買う」まではできます。

 「再び売る」が規制されているのです。資金の二回転は許されていません。

 しかし信用会社に証拠金を30万円を預け入れて、レバレッジを利かせず30万円で「信用買い」をします。

 すると一日に何回転でも融資が受けられるのです。つまり「買って」「売って」「再び買って」「再び売って」「三度買って」「三度売って」……と上限なしに回転させられるのです。


 この利点はデイトレードやスキャルピングトレード向けですね。

 どちらも同じ銘柄を一日に何度も取引するので「信用取引」は大きなメリットを受けます。


 そうなのです。


 実は「信用取引」とは「レバレッジ取引」をするためのものではなく、「回転売買」するためのものだったのです。


 証拠金はあくまでも「回転売買」するために預け入れる担保であって、レバレッジを利かせて大勝負に打って出るためのものではありません。


 ちなみに「回転売買」で現物取引のように運用資産を限定していると、利益も損失も現物取引とさして変わらないのです。

 ただ単に取引回数が増えるメリットだけが享受できます。

 まぁ金利や逆日歩も当然かかりますが、デイトレードやスキャルピングは日計り取引でその日のうちに決済するので、そもそも多額の金利にはなりえません。


 また借金を抱えないよう「10分の1取引」に徹していれば、「追い証」が発生してもすぐに入金できます。


 まぁ「追い証」が発生したということは「エントリーした当初の想定とは逆に動いている」わけですから、「追い証」を入れたらただちに手仕舞ったほうがよいでしょう。

 中には耐えていれば理想の方向に動き出す場合もないではないのですが、確率はきわめて低い。



────────


 「信用取引」は初心者向けの書籍ではとても推奨されています。

 ですが経験上、「レバレッジ取引」をするべきではありません。

 損失が見込み以上に膨らむからです。

 安易に「信用取引」を推奨している株式入門書にダマされないでくださいね。



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