第7話 Let It Be -7

 美智子は笑顔を本田に向けた。本田は少し照れたような様子で笑顔を返した。

「本田君、家はどっち?」

「あ、こっち。このまま、緑道沿いにずっと」

「じゃあ、一緒だ」

「同じ小学校だったんだよ」

「え、そうなの?知らなかった」

「僕も、名簿見て知ったんだ」

美智子はまた顔が熱くなるのを感じた。それを悟られまいと、前を歩くふりをして、先に立った。

「じゃ、一緒に帰ろう」

「うん」

 何を話すでもなく一緒に歩きながら、美智子は考えていた。いま、自分が女子の制服を着て歩いていれば、カップルに見えるだろうか。いまの自分の姿だと、どんなふうに見えるだろうか。

 ―――アタシハイッタイドウシタインダロウ。

 ふと思い出して美智子は訊ねた。

「前にさ、あたしにこのカッコやめた方がいいって言ったよね」

「うん」

「あの時にさ、ここは学校だからって言ったでしょ。あれ、どういう意味?」

「あぁ、あれは、僕たちはやっぱり生徒だから、規則は規則として守らなきゃいけない、ってそう思ったんだ」

「ふーん、そんなもんかな」

「そんなもんだと思うよ」

「でも、女子が男子の制服着ても、規則違反になるのかな」

「生徒手帳にはそう決められてるから」

「規則っか…」

「学生でいる限りはそうなってるんだと思うよ。その範囲で、僕たちは学生でいることを許されてるんだ」

「そんなもんなの?」

「だと、思ってる」

「窮屈だね」

「でも、西川さんは、自分でもっと窮屈にしてるみたいだよ」

「ん。考えたこともなかった」

「せっかく苦労して受験して受かったんだから、あんまり無理しないで」

「無理してるように見える?」

「…僕には」

「……そう。そうかもね」

 緑道を突き抜けて大通り沿いに道を辿って、信号で別れた。そのまま、一人で歩くいつもの道々、美智子は虚ろな気分で物思いに耽っていた。


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