第5話 Let It Be -5
職員室を出て、美智子はほっとした。何となく勝ったような気分だった。大野に言いに行こうかと思いながら教室に戻った。教室に入ると、視線が自分に集まっているように感じた。席に着くと、尚美が問い掛けてきた。
「ね、先生、どうだって?」
「別に」
美智子は顔を背けたままぶっきらぼうに答えた。そんな仕草に尚美もそれ以上話し掛けて来なかった。
美智子はこれでいいと思っていた。誰が何と思っても、これでいいと思っていた。
*
緑道に入ってぶらぶらと帰っていると休憩所に何人かの女子学生がいるのが見えた。その制服は緑ヶ丘のものだった。もしかしたら大野が座っているんじゃないかと期待していた美智子は、がっかりして通り過ぎた。
「あんた、ちょっと待ちなよ」
急に美智子に声が投げ掛けられた。振り返ると、その連中の視線は美智子を射るように見つめていた。
「何?」
「ちょっと、あんた、イキがるのも、いい加減にしなよ」
「そうさ。なんなのよ、そのカッコ」
「いい気になってんじゃないの。大野に目掛けてもらって」
「何だよ、あんたたち」
「何だっていいんだよ。おふざけはもうやめなって言ってるだけさ」
「そう、明日から、ちゃんと制服着てきなさいよ」
「これだって、制服だよ」
「ふざけないでよ。目立とうと思ってるんでしょ。バカみたい」
「うるさいな。あんたたちに文句言われなきゃなんない理由なんてないんだよ」
「なによ。生意気ね」
「仕方ないわね」
そう言うと、一人が合図した。他の数人が美智子を取り囲んで押さえつけようとした。
「何するんだよ」
「うるさい。おとなしくしな」
じたばたとしながら、ベンチに押さえつけられると、目の前にいた一人が鋏を出した。
「じっとしてなよ。じゃないと、ケガするよ」
「何する気だよ」
わめいて逃げようとしたが、美智子は両脇と腰を押さえつけられていて逃げ出すことはできなかった。制服の胸元が引っ張られて、ゆっくりと鋏が近づいてきた。美智子は大声を上げて助けを求めようとしたが、ハンカチを口に詰められてしまった。
と、目の前の鋏が視界から消えた。横から伸びた手が鋏を持った腕を引き払ったのだった。はっとして見上げる連中の押さえていた手の力が抜けたのを感じると、美智子は全力を振り絞って逃げ出した。あっという間もなく逃れた美智子は、近くにいた女子に蹴りを入れ、鞄を手にするとそれを振り回して殴りつけた。怯んだ女子は、互いに目で合図するとさっさと逃げ去った。ほっとしてそこを見ると、学生服の少年が立っていた。
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