第4話 Let It Be -4

 昼休み、クラス委員の本田が美智子に声を掛けてきた。その様子が恐る恐るという雰囲気に美智子には見えた。

「先生が呼んでるよ」

「ありがと」

ぶっきらぼうに答えて立ち上がると、まだそこに本田はいた。何か言いたげに見えた。

「どしたの?」

「あのさ、西川さん」

「何?」

「その格好」

「何、何か文句ある?」

「あ、いや、文句ないよ。カッコいいけど、もしファッションでやってるなら、やめた方がいいよ」

「どうして?」

「ここは学校だから」

美智子ははっとしながら微笑んだ。

「そうだね。でも、あたし、ファッションでやってるつもりなんてないから。うまくいえないけど、あたしはあたしなりに考えてやってるんだよ」

「あ、別に、文句言ったつもりじゃないから、気にしないで」

「わかってる、わかってる」

美智子は後ろ手に手を振って教室を出た。



 職員室に入り、担任の吉田先生の所に向かうと、向こうが先に見つけて手招きした。

「西川、まぁ、座れ」

イスを当てがわれて腰掛けると、吉田先生は目線を合わせないような素振りで、話し始めた。

「前から訊こうと思ってたんだが、その格好。何か理由があるのか?」

改めて訊ねられると、はっきりと言い出すのははばかられた。

「ん?どうだ?…いやな、お前の格好には、他の先生や生徒からも色々とクレームもついてるんだ。規則違反はもちろんだが、女子としての態度も欠けているんじゃないか、とかな。それで、その格好にこだわる理由があるなら話してもらえないか?」

美智子は答えることができなかった。この間、大野相手にははっきりと言えた理由を、この物分かりが良さそうなふりをしている大人に理解してもらえるとは思えなかった。

「ん、どうした?何でも、言ってくれ」

「アタシ……」

言葉がうまく続かなかった。

「ん、どうした?」

「アタシ…、嫌なんです」

「何が?制服か?」

「……それも、あるけど、そうじゃないんです」

「そうか。じゃあ、どういうことだ?」

「アタシは、男女差別が嫌なんです」

「差別?制服がか?」

「制服を通じてやってる、差別です」

「差別…ね…」

「アタシだって、ズボンはいて来たいんです。なのに、制服で決められたスカートでなけりゃダメなんて、不公平です」

「ぅん、まぁ、そうかな」

「アタシ、ズボンの方が好きなんです。だから、学生服にしたんです」

「そうか…」

吉田先生はそのまま黙った。納得したというよりは、美智子に対して言う次の言葉を探しているようだった。美智子は身構えた。どんな言葉にも対応してやろうと思った。

「まぁ、西川の言うこともわからないでもないが、規則は規則だ。もう一度、考えを改めてもらえないかな」

「アタシは嫌です」

「そうか。まぁ、考えておいてくれ」

そのまま吉田先生は横を向いた。美智子は少し拍子抜けした気分だった。

「いいよ、もう戻って」

「…はい」


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