第3話 Let It Be -3

 次の日もその次の日も美智子は制服を変えなかった。

 「ね、ミッちゃん」

登校してきて席に着くやいなや隣の席の岡林尚美が訊ねた。

「どうして、学生服なんて着るの?」

「アタシ、こっちの方が好きだから」

「でも…、変よ」

「変?」

「だって、女の子はこういうの着ることになってるし、こっちの方がかわいいもん」

近くにいた小西も頷いて言った。

「そうよ。ミッちゃん、かわいいのに、そんなの着てたら男の子と間違えられちゃうわよ」

「そんなの、気にしないわ」

「でも、やっぱり変よ。ねぇ」

「うん」

周りにいる女の子も同じように頷く。美智子は少し拗ねたような顔をして、

「放っておいて」と言って授業の用意を始めた。


 校内を歩いていても、何となく周りの視線を意識するようになってしまった。どこからともなく、笑い声が聞こえてくるような気分だった。自分では間違ったことをしているとは思っていない美智子だったが、やはり気になってきた。

 放課後の通学路を普通の顔で歩いているつもりだったが、やはり周りの目が気になってきた。好きでこうしているんだと自分に言い聞かせるようにしなければならないような気分になっていた。

 「おい」

男の声が聞こえた。それが自分に向けられたものだと敏感に感じ取った美智子は、立ち止まって振り返った。背後に大野が立っていた。

「相変わらずだな」

「なに?なんか用?」

「そう、つっけんどんにするなよ。ちょっと、いいか?」

「…お礼参り?」

「まさか。もう、いいよ。それより、訊きたいことがあるんだ」

 大野に誘われるままに緑道を通って休憩所のベンチに腰掛けた。

「あのさぁ、オマエ、なんでそんなにそのカッコにこだわってるんだ」

「別にこだわってるわけじゃないけど」

「だけど、いい加減にしたらどうだ。先公もうるせえだろ」

「文句があるなら、ひんむいてでも脱がしゃいいんだよ」

「ふん。女はいいよな。男だったら、とっくに無茶苦茶やられてるけど」

「女なんて言うなよ」

「女だろ。ま、確認したわけじゃねえけど」

「…女だよ。でも、なんで、こんな風になってるんだろ」

「何が?」

「こないだまで、男も女も関係ないじゃないか。小学校なんて、みんな一緒だったのに、急に男と女は別々ですなんて……、変じゃない?」

「だって、オマエ、女と男じゃ体力も違うし、能力だって、適性だって、それに、ほれ、色々とあるだろ…」

「でも、制服まで変える必要はないじゃない」

「…まぁ、そう言われればそうだけどな」

「アタシ、ズボンの方が好きなんだ。まぁ、アタシがガサツなせいもあるけどさ。駆け回ってても、階段走り抜けても、何にも問題ないじゃない。スカートなんて、邪魔っけだし、カッコも気になるし」

「そんなもんかな…。俺はスカートなんてはいたことないから、わかんないけどな」

「着てみる?貸したげようか」

「バーカ」

「うっとおしいよ。遊び回ろうと思ったら」

「お前さぁ……、自分が女だって、わかってるんだよな」

「……ぅん」

「女なのが、嫌なのか?」

「……そんなの、…よくわかんない……」

「制服、嫌なのか」

「うん。ヤダ」

「…そっか……。まぁ、頑張んな」

そう言うと大野は立ち上がった。

「ダチには、言っといてやるよ。オマエは変なヤツだから、ちょっかい出すなって」

「どういう意味よ」

「まぁ、気にすんな」

大野は大きく笑うと、手を振って去って行った。美智子は、少しほっとした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る